1998 Fiscal Year Annual Research Report
プラハのドイツ語文学における都市の近代化とその言語的表象
Project/Area Number |
09710357
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
三谷 研爾 大阪府立大学, 総合科学部, 講師 (80200046)
|
Keywords | 都市 / 近代 / プラハ / 表象 |
Research Abstract |
本研究課題は、平成9年度および10年度におこなわれた。昨年度においては、ヨーロッパ文化圏にける都市経験とその言語的表象の相関を歴史と理論の両面から検証した結果、都市経験が人間の「知覚」と密接に関連していることを明らかにした。18世紀に確立された視覚中心の知覚システムが、近代都市を記述するさいには失効しはじめ、モダニズム文学において決定的に解体されるというヨーロッパ的な大きな動向のなかで、プラハのドイツ語文学の位相も考察されるべきであるというのが、昨年段階で得られた重要な知見であった。本年度はこうした知見をふまえ、また昨年度よりすすめてきた国内外の研究機関(上智大学、北海道大学、オーストリア国立図書館、ヴィーン大学図書館、大英図書館など)をとおしての文献収集にもとづいて、都市プラハの近代化事業とプラハ出身の作家たちの文学テクストのあいだに働いていた相互作用を分析した。プラハでは1890年代から第1次世界大戦直前まで、「衛生化措置Assanier ung」と呼ばれる大規模な再開発工事が推進されたが、これは旧ゲットーを中心とした都市の闇の領域に光をもたらし、そこを可視化する事業であった。こうした都市空間の変容にたいし、それを黙殺して、むしろすすんで過去の都市表象を喚起するところに、〈プラハのドイツ語文学〉の原点があったと考えられる。すなわち、都市の近代化によって、ポーやボードレールに始まる美的モデルネの思考の継承が可能となり、ドイツ語圏におけるモダニズム文学の震源地のひとつとしてプラハが出現したのである。そこにはまた同時に、この多民族都市におけるヘゲモニー闘争が関与しているが、モダニズム文学の担い手たち(レッピン、カフカ、ブロート、ヴェルフェル、ハース、ウルツィディールなど)の意識はむしろ、そうした民族問題からの超越ないし逃避にあった。本研究では、この逃避の姿勢と都市の近代化への疑念とが結合したところに、ベルリンやヴィーンとは異なったプラハのモダニズム文学の固有性があることを確認して、2年にわたる研究を終了した。
|