1997 Fiscal Year Annual Research Report
十六世紀英仏の伝統的な政治学が宗教内乱に対応できなかった理由について
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09720054
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福田 有広 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 助教授 (00208951)
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Keywords | 宗教内乱 / エリザベス朝 |
Research Abstract |
本研究は、十六世紀のイングランドとフランスの政治学の双方に亘る調査を行おうとするものであるが、二年の研究期間のうちの初年度に当たる今年度は、主としてイングランド関係の文献の収集と、それに基づく調査を行った。 特に、具体的な調査の対象としたのはトマス・スミス(Sir Thomas Smith)とフィリップ・シドニー(Philip Sidney)であった。まず、スミスはDe Republica Anglorumにおいて、イングランドの最高権力(the most high and absolute power)を議会に認めつつ、その一方で、君主こそは、イングランドのあらゆる権威(the authoritie)の源であるとし、一見、矛盾した議論を展開している。ところが、スミスはその矛盾の克服に何ら神経を使ってはおらず、むしろそのことがスミスの政治観の著しい特徴である。すなわち、君主と議会との協同は当然に約束されているということである。 また、シドニーは、Arcadiaという文芸作品の中で、たとえ君主自身が残虐でなくとも、宮廷内の追従によって君主政は容易にティラニ-に転落する危険性を持っていることを繰り返し警告している。ところが、こうして君主政の欠陥を指摘する一方で、共和政を現実の選択肢として考えることはなく、イングランドが君主政をとることを当然の前提としている。 以上、エリザベス朝の両者に共通するのは、イングランドを一つの政治体としてとらえることと、その中心に君主が存在することとが不可分一体であるという政治観である。これは、ティラニ-に対する二類型(残虐型と私利私欲優先型)が顔を出す点もあわせ、遠く聖トマスに遡る問題であるという見通しを抱かせるに至っている。
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