1997 Fiscal Year Annual Research Report
“現代日本社会"の形成と“在来的経済発展"-比較史の中の日本工業化-
Project/Area Number |
09730046
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷本 雅之 東京大学, 大学院・経済学研究科, 助教授 (10197535)
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Keywords | 問屋制 / 家内工業 / 在来的経済発展 / 在来産業 / 織物業 / 工業化 / 家族経済 / 農家世帯 |
Research Abstract |
本年は、本研究の課題としてあげた第1点、すなわち、これまでの工業化論(ないしは産業革命論)が想定している、工業化=機械制大工場の形成という認識を相対化することを、在来産業の主要な生産形態としての、問屋制家内工業の展開の論理を明らかにすることを通じて試みた。具体的には、問屋制家内工業を、「問屋制」と「家内工業」の二つの独立の経営論理を有する経済主体の結合ととらえ、それぞれの経営論理の内実と、両者が取り結ぶ関係の実態を検討した。史料としては、これまで筆者が分析を行なってきた、埼玉県入間地方の出機業者滝沢家の事例に加えて、新たに同地方の織物業者の経営史料-石山家と神山家-を収集し分析に用いたが、後者は特に「家内工業」の論理を検討する際に有益な情報源となった。 分析の結果は、これまでの筆者の研究とともに『日本における在来的経済発展と織物業』(特に第II部の後半部分)にまとめられた。近代日本の「問屋制家内工業」の展開は、一方では在地商人に代表される流通主体による商品市場の形成であり、他方では農家世帯の再生産「戦略」に根拠をおく、独自な労働市場の形成があり、それが問屋制経営による組織化のもと、産業としての発展に繋がっていく。その過程は、市場関係の形成とそれにたいする家族経済の対応であり、その過程の深化のなかに、産業発展を推進する産業組織としての問屋制形態の経営発展があった。この構図の形成が近世後期にあり、かつその深化の過程が、明治以降の近代的な工場・企業の成立を基盤とする「近代的」な経済発展とは区別される構造を有していたことをもって、明治・大正期の日本経済は、織物業にみられるような、「在来的経済発展」と称すべき経済発展の固有のパターンをその内に含んでいたと考えられるのである。
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