1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09730048
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
石山 幸彦 横浜国立大学, 経済学部, 助教授 (90251735)
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Keywords | 経済統合 / 共同市場 / ヨーロッパ統合 |
Research Abstract |
本年度の研究では、ヨーロッパ統合実現の第1歩であるヨーロッパ石炭鉄鋼共同体が開設した鉄鋼共同市場の構造と機能について、フランスを中心に検討した。その際、設立当初の一時的な景気停滞期に生じた下記の問題とその解決過程を吟味し、共同市場における鋼材の流通とその管理の実態を検討した。 鉄鋼共同市場は1953年5月に開設されたが、同年の後半からは、一時的な景気停滞による鉄鋼受注減少のため、鉄鋼市場では公表価格からの値引きが横行した。共同体の結成条約に矛盾するこの事態に直面し、共同体の最高機関は公表価格から2.5%までの値引きを認める決定を下す。すなわち、最高機関はパリ条約に抵触する実態を追認ざるをえなかった。だが、この決定には、当時の低い鉄鋼価格に悩まされていたフランス鉄鋼業界からは批判の声があげられた。これを受けて同国政府は、1954年に最高機関の値引き容認の決定をパリ条約違反として共同体の裁判所に告訴する。同年末に裁判所が下した判決は、最高機関の決定を条約違反と認め、その取り消しを命ずるものであった。以上の諸事実の分析から、共同体結成後もパリ条約の規定に反して、フランス政府の鋼材市場への管理、統制力が実質的には維持されていたことが明らかになった。 なお、本研究の成果の一部は、石山幸彦「戦後西ヨーロッパの再建と経済統合の進展-連邦主義の理想と現実-」『土地制度史学』第159号、1998年4月、42-51頁に発表されている。さらに、社会経済史学会第68回全国大会(1999年5月)において、「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体の発足とフランス政府、鉄鋼業界の対応」と題して報告する予定である。
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