1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09740415
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安藤 耕司 筑波大学, 物質工学系, 講師 (90281641)
|
Keywords | 化学反応理論 / 凝縮相化学反応 / 分子モデリング / 光合成色素 / 光合成初期電子移動 / 非平衡動力学 |
Research Abstract |
1.メタノール溶媒中の有機色素分子の電子状態変化と溶媒和過程との動的結合に起因する吸収・発光スペクトルの微視的機構を理論的に解析した。非経験的分子軌道法と分子動力学シミュレーションを組み合わせた新しい手法を開発した。古典的シミュレーションデータを基に吸収・発光スペクトルを量子力学的に計算するための基礎理論を改良した。従来の単純なモデルによる結果と異なり、溶質の電子状態揺らぎによって溶媒和ダイナミクスはわずかに減速するのみであり、しかもそれは溶媒座標の力の定数の変化のみから説明するのは適切でないことを明らかにした。一方、色素分子の電子状態揺らぎは、スペクトル幅を有意に拡げることを示した。 2.光合成色素分子(クロロフィル誘導体)の吸収スペクトルと酸化還元電位の置換基(側鎖)依存性と中心金属置換効果について、実験研究と協力しながら、電子状態の非経験的分子軌道計算に基づいて考察した。実験データと計算結果とは定性的に良い相関を示し、適当な補正によって実験を予測または補助することが可能であることが分かった。さらに、光合成アンテナ系から反応中心への励起移動の微視的機構解明に向けて、遷移双極子間相互作用の分子モデリングに必要な理論手法の開発と数値計算を行った。 3.超高速レーザー光励起に続く電子状態間遷移過程の非平衡ダイナミクスを記述する基礎理論を構築し、紅色細菌の光合成反応中心における初期電子移動過程に応用した。この系では、時間依存の電子移動速度は顕著な振動を示すが、光励起状態の分布のトータルの減衰には強い振動は見られないことを示した。さらに、この系の異常な温度依存性(低温での電子移動の加速)について、従来指摘されてきたような非平衡振動コヒーレンスは重要でなく、系の静的なエネルギー配置と低温における媒質の量子トンネル効果によって説明できることを明らかにした。
|