1998 Fiscal Year Annual Research Report
共役π電子系の赤外・ラマン強度と電子・振動相互作用に関する研究
Project/Area Number |
09740417
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鳥居 肇 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (80242098)
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Keywords | 共役π電子系 / 赤外・ラマン強度 / 電子・振動相互作用 / 分子振動 |
Research Abstract |
電子-振動相互作用は,共役π電子系の分子振動を扱う際に避けて通れない問題である。近年,電子計算機の性能が格段に向上した結果,電子相関の効果を取り入れた電子波動関数を用いて,共役π電子系の分子振動を数値計算できるようになり,電子-振動相互作用の定量的評価という点に関しては,解決の方向に向かっている。しかし,共役π電子系における電子-振動相互作用に対する理解を深めるためには,振動力場(スペクトルの横軸)のみではなく,赤外・ラマン強度(スペクトルの縦軸)にも注目する必要がある。本研究では,このような考察に基づき,以下の2点について研究を行った。 (1) 赤外強度に大きく寄与する振動形の解析 平成9年度に引き続き,3次元doorway-state理論を用いて,赤外強度に大きく寄与する振動形を,幾つかの代表的な共役π電子系分子を例にとって解析した。今年度は特に,多環芳香族炭化水素ラジカルカチオンのうち,電子状態の縮重によって構造がヤーン-テラー歪みを起こすものとして,triphenylene及びcoroneneのラジカルカチオンをとりあげた。これらの分子は,中性からラジカルカチオンに酸化されると,1600-1000cm^<-1>領域の赤外強度が非常に増大するなど,赤外スペクトルの様子が大きく変化する。本研究では,その増大した赤外強度に寄与する振動モードの振動形が,ヤーン-テラー歪みによって生成する2種の構造でどのように異なるかを解析した。 (2) 赤外強度に関係した電子構造変化の解析 赤外強度の起源となる電子構造変化を議論するためのモデルハミルトニアン(平成9年度の研究において考案,及びプログラム作成)を用いて,赤外強度の起源となる電子構造変化を検討した。その結果,双極子微分が結合次数の電場による微分から比較的精度良く見積もられること,少数の1電子励起電子配置の混合が双極子微分の符号と大きさを決定することが明らかとなった。
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[Publications] H.Torii: "Effects of hydmhon on the structure,vibrational wavenumbus,vibrahonal force field,and resonarce Raman intersilies of N-methylacetamide" J.Raman Spectrosc.29(6). 537-546 (1998)
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[Publications] H.Torii: "Raman intensities induced by electrostatic intermodewlar interaction and related nonlinear optical propties of a conjugated π-electron system:A theoretical study" J.Phys.Chem.A. 102(43). 8422-8425 (1998)