1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09740419
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
三浦 伸一 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 助手 (10282865)
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Keywords | 経路積分分子動力学 / 液体ヘリウム / 量子液体 |
Research Abstract |
溶液内の化学的過程を分子レベルで理解することは化学において最も重要なテーマの一つである。溶液内化学過程を第一原理から取り扱う理論的な方法論として分子動力学法が挙げられる。しかしながら分子動力学法では分子間相互作用は経験的なものが用いられ原子核は古典的に扱われる場合が多い。特に水分子のように構成原子のなかに軽いものが含まれていると、そのゆらぎには量子効果が大きいことが予想される。そこで本研究でまず原子核の量子効果を取り扱う理論的方法についての研究を行った。本年度は量子多体系の動力学を取り扱う近似理論である経路積分セントロイド分子動力学法をとりあげ、その妥当性について検討した。対象とした系はおおきな量子効果が期待される常流動液体ヘリウムを選んだ。 1)基準振動経路積分分子動力学法のプログラムを作成し、常流動液体ヘリウムのセントロイド分子動力学計算を行った。シミュレーションをおこなった状態点では古典近似のままではヘリウムは固体になってしまい量子効果の重要性を示した。特に得られた拡散係数は10^<-5>cm^2/sのオーダーになり液体状態に期待されるオーダーとなった。この計算はヘリウムの液体状態を動的に生成した初めての研究例である。 2)液体ヘリウムの時空相関の解析を行った。これは中性子散乱実験で直接観測できる動的構造因子を用いて行った。シミュレーションから得られたスペクトルは波数が0.1Å^<-1><k<1Å^<-1>の範囲では実験を非常に良く再現できることがわかった。さらにスペクトルの先鋭化がおこる2Å^<-1>あたりになると、ピークの位置は比較的よく実験を再現できるのであるが、強度をつよく見積もってしまう傾向がある。化学的な過程にもっとも重要なのはピークの位置であり、その意味では十分であるといえる。今後は液体ヘリウムの中にアルカリ金属などの不純物を挿入して実験より得られているスペクトルの解釈を行う予定である。
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