1998 Fiscal Year Annual Research Report
棲み場所構造の決定を通して地質が潮間帯生物群集構造と多種共存機構に与える影響
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09740572
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
野田 隆丈 北海道大学, 水産学部, 助手 (90240639)
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Keywords | 岩礁潮間帯 / 遷移 / 地形 / 生物群集 / 海域生産性 |
Research Abstract |
【研究目的】岩礁潮間帯では地形構造決定を通して地質が生物群集構造と多種共存機構に及ぼす影響を調べた研究はない。そこで北海道南部で火山岩と火山砕犀岩からなる岩礁海岸のムラサキインコガイ帯で、地質の違いに対応して地形構造と群集構造は異なるか、地質の違いが群集形成作用にどのように影響するか、地質の異なる岩礁海岸で固着生物群集の多種共存メカニズムはどのように異なるか、を明かにすることを目的とした。 【平成9年単年度の実績】火山岩と火山砕屑岩からなる11の海岸で地形の複雑さとムラサキインコガイ群集構造を調査した。また各海岸にムラサキインコガイを剥いだ人工パッチを5個つくり、パッチ内の初期遷移と海水成分(栄養塩・chl a)の反復観測を開始した。 その結果、火山岩海岸は火山砕犀岩海岸に比べ、1-10cm、1-10m空間スケールでの地形の複雑さが大きく、ムラサキインコガイは少なく、ムラサキインコガイを餌とする肉食性巻貝は多く、また種多様性種数は高いことが明らかになった。このことは火山岩海岸では肉食性巻貝が競争的優位種ムラサキインコガイの競争的排除を抑えることにより多様性が高くなっている可能性を示唆する(key stone predation仮説)。 【平成10年度の研究実績】key stone predation仮説を検証するため、4つの火山岩海岸と火山砕犀岩海岸で、肉食性巻貝の密度操作実験を行った結果、短期的(半年)には肉食性巻貝の捕食圧はムラサキインコガイ個体群増殖率に対して有為ではなく仮説は支持されなかった。しかし完全な仮説検証のためにはさらに継続した密度操作実験が必要で現在も続行中である。 前年度に作成した人工撹乱パッチの1年間の遷移過程を解析した結果、地質は撹乱パッチ群集構成種のソースハビタットであるムラサキインコガイマット上の大型藻食者密度と海藻種数に影響し、栄養塩供給量はムラサキインコガイマット上の一年性海藻のバイオマスに影響を及ぼすことがわかった。また地質は撹乱パッチへの海藻の住み着き速度へ影響することが明らかになった。また地形の起伏の増大は生物間相互作用(競争と藻食)の重要性を増大させ、栄養塩供給の増加は競争の重要性を増加させる一方で藻食の重要性を低下させることが示唆された。 また火山岩海岸での高い多様性の原因は、現在までの解析結果を総括すると環境の複雑さに起因する資源分割の促進と、撹乱パッチへの海藻の住み着き速度の増大が主要因になっている可能性が大きいが、撹乱パッチ内の全遷移系列をカバーするまで結論は出せない。また別に操作実験も必要であり現在検討中である。
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