1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09740579
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
辻 瑞樹 富山大学, 理学部, 助手 (20222135)
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Keywords | 血縁淘汰 / 生活史戦略 / アリ / マイクロサテライトDNA / 左右対称性のゆらぎ / 個体群動態 / 真社会性 / 利他行動 |
Research Abstract |
本研究の目的は、社会進化の理論でこれまで注目されてこなかった生活史戦略理論から、アリ類の社会構造の多様性を再検討し、血縁淘汰理論と生活史戦略理論の統合をめざすことである。最終年度となる本年は、初年度に準備したマイクロサテライト核DNA多型の分析技術を実際のアリに応用した。そして、血縁淘汰の予測を検証すべく、富山県庄川町におけるハリナガムネボソアリの個体群で、コロニーの遺伝構造と性比の調査を行った。結果、女王はほとんどが単婚で、コロニー内の血縁度もハミルトンの3/4仮説を支持する0.75と推定された。しかし、性比は個体群全体で雌の比率が0.75と0.5の中間となり血縁淘汰の予測に反し、またコロニー毎の性比も分断性比がみられたものの血縁淘汰から予測されるのもとは異なっていた。これらの事実は従来の血縁淘汰モデルの不備を示唆している。コロニー毎の性比の変動パターンの理論からのずれを説明するものとして、これまで考慮されてこなかった繁殖虫の生活史形質に作用する個体レベルの淘汰の重要性が考えられる。それは雄を多く作ったコロニーほど雄の前翅の左右対称性が高くなることが示されたからである。これは、性淘汰に有利な雄を生産するために、コロニーは雄に偏った性比で繁殖虫を作るという仮説で説明可能である。また、雌を多く作ったコロニーでは雌の身体の大きさが有意に増加していた。これも、分散後の新女王の生活史において雌の体サイズに正の方向性の個体淘汰が働いていて、コロニーは個体淘汰で有利な雌を作るため性比を偏らせていると解釈できる。この仮説を検証するため、今後は繁殖虫の個体形質に実際にかかる自然淘汰圧を測定する必要があるだろう。また、残念ながら2年間の研究期間では、生活史戦略を議論するために必須となる、アリの個体群サイズの変動過程を捉えることはできなかったが、本助成による予備的な調査から、これらのデータの採集が可能と判断できた沖縄産のハリアリなどを用いて、今後は長期的展望による研究が望まれる。
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[Publications] Tsuji,Kazuki: "Indices of reproductive skew depend on mean reproductive success" Evolutionary Ecology. 12. 141-152 (1998)
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[Publications] Tsuji,Kazuki: "Experimental investigation of the mechanism of reproductive differentiation in the queenless ant Diacamma sp.from Japan." Ethology. 104. 633-643 (1998)
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[Publications] Nakata,Kensuke: "Sexual calling by workers using metatibial glands in the ant, Diacamma sp.from Japan." Journal of Insect Behavior. 印刷中. (1999)
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[Publications] Kikuta,Noritsugu: "Queen and worker policing in a monogynous and monandrous ant" Behavioral Ecology and Sociobiology.印刷中.
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[Publications] Tsuji,Kazuki: "Regulation of worker reproduction by direct physical contacts in the ant Diacamma sp.from Japan." Animal Behaviour. 印刷中.
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[Publications] 辻 和希: "アリのコロニーおよび血縁認識システム" 日本生態学会誌. 49・2印刷中. (1999)