Research Abstract |
昨年度は,本研究費で購入した磁気センサを用いて,聴取者の位置と頭部の運動を検出することにより,Kirchhoffの積分公式に基づいた音場再生の原理に従いながら,聴取者の動きに起因する音源から聴取者の耳元までの音響伝達系の動的変化に追従できる音場再生システム-仮想球モデルに基づく音場再生システム-が構築できることを着想した.今年度は,極めて精度の高い聴覚ディスプレイが構築できることを,理論的な解析をとおして示した.この結果を,日本バーチャルリアリティ学会第3回大会において発表したところ,本発表に対して,今年3月に学術奨励賞が授与された. この聴覚ディスプレイを,50MFLOPSのDSPを複数個使用した計算機をもとに構築した.DSPの規模(個数,演算速度)の制限から,実音場を精密に再生することはできないが,自由音場など,簡単な特性の音場における仮想音源の提示には,有効に動作することが確認された.また,これまでに,頭部の動きに対し,20ms程度の遅れで頭部伝達関数を変化させることが可能となっている.しかし,頭部の動作による頭部伝達関数の変化には,できる限り実時間で追従することが望ましいため,現在もこの遅れを短縮するための作業を進めている.それと同時に,この時間遅れが,聴取者の仮想音源の知覚に及ぼす影響を明らかにするために,時間遅れと,聴取時の自然さとの関係を調べる聴取実験を行った.その結果,200ms程度の時間遅れでは,聴取時の自然さが完全に損なわれることがわかった.また,実験に用いた時間遅れの範囲では,実音源を聴取した場合と同等の自然さを得ることができなかった. 以上のことから,本研究では,Kirchhoffの積分公式に基づき,聴取者の周りの音場を高精度に再生する手法を示し,それを実現するための基本的なシステムを構築した.ハードウェアの制限から,聴取時の主観的印象との関係については,実音源聴取時と同等のものは得られず,課題が残ったものの,システムを構成するDSPなどの性能が向上すれば,本研究で提案した音場再生手法を,より高い精度で実現することが可能となると考えられる.
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