Research Abstract |
既存不適確建築物(以下,既存建物という)の耐震性向上は緊急を要する社会問題であり,その施策の第l段階として,まず,耐震診断により既存建物の耐震性能を明らかにする必要がある。兵庫県南部地震以降多くの自治体で行われている耐震診断では,志賀の指標(Ic-指標)と日本建築防災協会による構造耐震診断指標(1次 (Is1-指標),2次(Is2-指標),3次(Is3-指標))が広く用いられている。被災度予測の観点からは,既存建物群の詳細な耐震診断(Is2,Is3-指標)に基づいた耐震性能の分布モデルが必要であり,一方,膨大な数に上る既存建物の個々について耐震改修の要否を判断するためには,簡易で信頼性の高い耐震診断法が必要である。 本研究では,まず,平成7年度にA県にて行われた約250件の耐震診断結果(Ic, Is1, Is2-指標値)のデータベースを作成し,これを用いて,既存建物の耐震性能の分布モデルの検討を行った。既往の研究では対数正規分布がよく適合するとされているが,耐震指標値が0.1を下回るような建物は現実的でないことを考慮して,下限を0.lとした対数正規分布を提案し,統計的検定を用いて下限を0とする対数正規分布より適合度が高いことを示した。 続いて,Ic, Is1,およびIs2-指標の相関を各指標の評価方法の違いに着目して検討した。Ic-指標とIs1-指標は基本的に建物の壁と柱の量に基づいて耐震診断を行うもので,簡易な手法ではあるが信頼性が劣るとされている。しかし,極脆性柱の有無,第2種構造要素の有無,靭性型・脆性型の区別をすることにより,IcおよびIs1-指標の信頼性を高めることができることを示した。特に,極脆性柱および第2種構造要素の無い逮物では,Is2-指標値が0.75・Is1-指標値を下回る場合はl棟しかなく,このような建物では,Is1-指標値によって耐震改修の判断は可能である。 上記の結果については,今後データベースの拡充を行い,検証していく予定である。
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