Research Abstract |
東京都八王子市に位置する試験圃場に幅1.8m,長さ22.1mのUSLE試験枠を4連作成した。平成9(1997)年6月20日の台風上陸時,一定時間毎にその水質特性と土壌流亡量を観測し,施肥量の異なる各試験枠における窒素およびリンの流出特性と流出負荷について検討した。試験枠Iは無施肥,IIには5kg施肥(125.7kg/10a),IIIには10kg施肥(251.4kg/10a),IVには25kg施肥(628.5kg/10a)を行った。使用した肥料は窒素8%,リン8%,カリ8%である。なお,各試験枠とも裸地状態であった。水質測定項目は,懸濁液中の全窒素,全リン,浮遊物質,上澄み液中の全窒素,全リン,アンモニア態窒素,硝酸態窒素,亜硝酸態窒素である。上澄み液は採水した懸濁状態のサンプルを遠心分離して得た。全窒素はアルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウム分解-紫外線吸光光度法,全リンはペルオキソ二硫酸カリウム分解法,浮遊物質は光度法,アンモニア態窒素はネスラ-法,硝酸態窒素はカドミウム還元-ゲンチシン酸吸光光度法,亜硝酸態窒素はジアゾ化法で各々分析した。 観測の結果,濃度で表示した流亡土量と浮遊物質は同様の流出傾向を示した。また懸濁液中に含まれる全窒素濃度および全リン濃度は上澄み液中の濃度を大きく上回った。このことから土壌粒子や浮遊物質に伴って富栄養化成分が流出したと推定できた。さらに無機態窒素の流出特性から,流出初期はアンモニア態窒素濃度が高く,他の無機態窒素を大きく上回るが,経時的に低下傾向を示した。流出から3時間後には硝酸態窒素濃度がアンモニア態窒素を上回った。その後無施肥枠における硝酸態窒素は一定濃度を示すが,10kgおよび25kg施肥枠では経過時間とともに硝酸態窒素濃度は上昇し続けた。 流亡土量および富栄養化成分の流出負荷についても検討を行った。6月20日の降雨期間中,5kg施肥枠における流亡土量は509kgで最も多く,施肥量の増加に伴って流亡土量は減少した。対して懸濁液の全窒素負荷および全リン負荷は,施肥量に伴って増加する傾向を示した。上澄み液における全窒素および全リン負荷については顕著な傾向はなかった。有機態窒素についても施肥量に伴い流出負荷は増大した。さらに無機態窒素のなかでは硝酸態窒素の流出負荷が最も大きかった。 本研究の結果より,畑地土壌の侵食過程において,土壌粒子に伴い富栄養化成分が流出することが明らかとなり,これらの富栄養化成分の流出は多施肥枠において顕著であった。下流域における水環境保全上も畑地の土壌保全対策が重要であると考察した。
|