Research Abstract |
昨年度作成したブタ胃由来(H,K)ATPaseαサブユニット,ウサギ胃由来(H,K)ATPaseβサブユニットウサギ骨格筋由来Ca-ATPaseのcDNAを組み込んだ鋳型プラスミドからそれぞれのcRNAを合成し,[^<35>S]Met,[^<35>S]Cysによる短時間標識を行った.(H,K)ATPaseαサブユニットの場合,(Na,K)ATPaseαサブユニットと同様に標識開始後3分でαサブユニットのバンドに先行して,生合成が一時中断した前駆体と推定されるやや小さい分子種,α^1のバンドが見られた.このことは生合成の一時中断という現象が(Na,K)ATPase特有のものではなくて,P型ATPaseに共通の性質である可能性を示していると考えられる.βサブユニットについてははっきりしたバンドは見られなかったが,(Na,K)ATPaseと同様に,βサブユニットとの共発現によりαサブユニットの安定化と発現量の増大が見られたことから発現はしているものと推定された.これは(H,K)ATPaseβサブユニットでは(Na,K)ATPaseβサブユニットに比べて付加される糖鎖の数が多いため,拡散したバンドになってしまいはっきりしたバンドとして検出できなかったものと考えられる.一方Ca-ATPaseについては(Na,K)ATPase,(H,K)ATPaseのような明瞭な前駆体のバンドは見られなかった.次にこの生合成の中断が予想したように相互作用部位を考えられる,膜貫通セグメント7,8の間の細胞外側領域で起こっているのかについて,生合成の中断が起こらなかったCa-ATPaseと(Na,K)ATPaseαサブユニットとのキメラを用いて検討した.膜貫通セグメント4と6で(Na,K)ATPaseαとCa-ATPaseを切り繋いだキメラ,NCC(N末端側1/3が(Na,K)ATPase)とNCN(中央1/3がCa-ATPase)ではどちらも短時間標識で前駆体と考えられるバンドが検出された.このことは生合成を一時中断させるシグナルが相互作用部位以外の領域,おそらくは膜貫通セグメント4よりもN末端側の領域の存在することを示しておりこれまでの作業仮説とは矛盾する結果となった.この問題については更なる検討が必要である. この短時間標識実験の過程で,これまで(Na,K)ATPaseβサブユニットと相互作用しないとされていたC末端側1/3がCa-ATPaseであるキメラでも,生合成の極く初期では(Na,K)ATPaseβサブユニットと複合体を形成しうることが見いだされた.さらに驚くべきことには野生型のCa-ATPaseでも同様に(Na,K)ATPaseβサブユニットと複合体を形成しうることが明らかになった.このような現象は従来の長時間標識の実験では検出できなかったことであり,高次構造の形成におけるβサブユニットの役割について重大な示唆を与えるものと考えられる.現在この現象についてCa-ATPaseの機能に対する影響も含め更なる検討を進めている.
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