Research Abstract |
鼓室形成術には,様々な耳小骨連鎖形成材が用いられているが,,これら形成材の形状,材質および連鎖形成位置は,主に術者の経験に基づいて決められることが多く,動力学的見地からの報告は少ないため,最適な鼓室形成術は確立されていない。そこで,本研究では,有限要素法(Finite Element Method:FEM)により,ヒトの中耳をモデル化し,キヌタ骨を様々な形成材で置き換え,その形状,材質および形成位置が伝音特性に及ぼす影響を調べ,最適な鼓室形成法の検討を行う。 昨年度までに,ヒト正常中耳FEMモデルと,キヌタ骨を棒状の形成材(コルメラ)で置き換えたモデルを作成し,コルメラの材質とその置き換え位置を変化させて伝音特性を求め,正常耳のそれと比較し,最適材質と,置き換え位置を決定した。今年度は,コルメラの形状を変化させ,伝音特性の解析を行った。その結果,軟骨製のコルメラを便用する場合は,断面積16mm^2程度のものがもっとも伝音効率が良いことが明らかとなった。癒着などの防止の観点から,コルメラ径は細身のもの(数mm^2程度)が有利であるが,本研究により,伝音効率の観点からは,コルメラにはある程度の太さが必要であることを示した。 鼓室形成術後,中耳の状態は,時間の経過とともに様々に変化する。この術後変化をシミュレートするため,術後中耳モデルの鼓膜ヤング率および厚さを変化させて解析を行った。その結果,鼓膜の剛性および厚さの変化は,主に2kHz以上の比較的高い周波数の伝音特性に影響を及ぼした。従って,術後の鼓膜変化により,高音域の聴力が変化することが考えられた。
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