肝疾患動物および肝培養細胞における各種微量元素の選択的濃縮と受容機構の解明

1997 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 09772015
• Research Institution: The Institute of Physical and Chemical Research
• Principal Investigator: 榎本 秀一 理化学研究所, RIビームファクトリー計画推進室, 研究協力員 (10271553)
• Keywords: マルチトレーサー法 / リングサイクロトロン / アルコール性肝障害 / LECラット / 核破さい反応 / 向骨元素

Research Abstract

本年度は、肝疾患モデル動物(肝臓癌(LECラット)、急性アルコール症)、担癌動物など疾病モデル動物、酸素濃度変動環境飼育動物、Se欠乏症動物における生体微量元素のダイナミクスについて代謝生理学的研究を行った。また、微量元素の体内における初期受容過程に関与する血漿蛋白質ならびに血球成分との相互作用、金属蛋白質であるメタロチオネインと各種元素との相互作用を検討した。
このうち特に興味深い結果は、肝臓障害と微量元素の蓄積性に関するものである。肝臓障害は、飽食の時代と言われる現在、慢性的な疾患として問題視され、肝臓癌、肝硬変に至る様々な局面からの研究がなされている。本年度の研究では、肝障害を惹起した動物の肝臓において、Bone seekerの元素が、肝臓障害を惹起した肝臓に蓄積した。この結果は、先に報告した我々の糖尿病動物を使った研究結果と類似していた。すなわち、肝臓障害を起こしている肝臓は、多くの脂肪顆粒と組織の繊維化が観察され、繊維化した組織部分へのBone seekerの蓄積が見られた。これは繊維化した細胞にTransferrin receptorが大量に発現し、この繊維細胞に、希土類元素のようなBone seekerとtransferrinのコンプレックスが取り込まれるためと考えられた。また、酸素濃度の異なる環境で飼育したマウスの各種微量元素のダイナミクスは、測定したほとんどすべての元素で、酸素濃度変化の影響が現れなかったが、Rbの代謝過程は大きな変化が観察された。すなわち、酸素濃度の増大に伴って、Rpの取り込みは減少した。臨床における麻酔と酸素濃度の関係、老化、アポトーシスと酸素濃度の関係の観点から現在も研究を進めている。
さらに、肝障害と密接な関係を有しているセレンは現在最も注目されている生体微量元素の一つであるが、このセレンの欠乏状態にあるラットにマルチトレーサーを投与し、そのダイナミクスを観察したところ、ヒ素、鉄、スカンジウムの挙動に正常と大きく異なる結果を得た。すなわち、セレン欠乏症のラットはヒ素の肝臓蓄積が時間依存的に上昇し、また、鉄、スカンジウムの骨および肝臓蓄積が上昇した。セレンとこれら元素との生体内相互作用の報告は、ほとんどなく、現在この原因究明に生化学的アプローチを行っている。
また、本年度は非破壊でトレーサーのダイナミクスを追跡できるマルチトレーサーガンマ線断層イメージング装置の開発に着手した。この装置は、ガンマ線のエネルギーの異なる数種類のトレーサーの動きを追跡するものであり、本装置の開発は、臨床応用も可能となる装置である。

Research Products

• [Publications] Enomoto S.,et al.,: "Distribution and Pathological Studies on Rare-Earth Elements in Non-Insulin Dependent Diabetes Mellitus Mice," Trace Elements in Man and Animals,. 9. 347-348 (1997)
• [Publications] Enomoto S.,et al.,: "Multiracer Study on the Uptake of Inorganic Ions by Tumor," Trace Elements in Man and Animals,. 9. 363-364 (1997)
• [Publications] Enomoto S.,et al.,: "Biodistribution of Gold Complexes in Mice," Trace Elements in Man and Animals,. 9. 568-569 (1997)
• [Publications] Hirunuma R.,et al.,: "The Use of the Multiracer Technique for Uptake Rate Study of Trace Elements in Rats," Appl.Radiat.Isot.,. 48. 727-733 (1997)
• [Publications] Enomoto S.,et al.,: "Unique behavior of Rubidium in Mice under low Oxygen Atmosphere" Annals of Clinical and Laboratory Sciences,. 27. 358-364 (1997)
• [Publications] Ozaki T.,et al.,: "Determination of Lanthanides and Other Trace Elements in fems by Instrumental Neutron Activation Analysis" J.Radioanal.Nucl.Chem.,. 217. 117-124 (1997)
• [Publications] 蛭沼利江子ら: "マルチトレーサー法を用いたセレン欠乏ラットにおける各種微量元素の取り込みに関する研究" Biomedical Research on trace Elements. 8. 65-66 (1997)
• [Publications] Enomoto S.,et al.,: "Biobehavior of Various Trace Elements in Hepatopathic Animals" Biomedical Research on trace Elements. 8. 153-155 (1997)
• [Publications] 外角直樹ら: "各種微量元素の血液成分への結合に関する研究" Biomedical Research on trace Elements.