Research Abstract |
運動の観察学習においては,視覚的モデルだけでは不十分であり言語的手がかりが必要であることが多くの研究で示されている.平成9年度は,指導者が運動を構成するために用いる擬態語について調査し,さらに,学習者により形成される運動表象に対し擬態語の果たす役割を検討した.その結果,言語的コード化するために「音への変換」と「動作への変換」といった方略が用いられ,特に,擬態語による「音への変換」は,力の量と長さ(時間)の調節に対して有効であった. そこで,本年度は,運動のリズムを作り出すために, 「音への変換」がどのように行われているのかを調査し,リズムの調整に対する「音への変換」の有効性を検討した. スキー経験の異なる被験者を対象に,もっとも滑りやすいリズムを基準とし,それよりも早いリズムと遅いリズムで構成された5つのリズムで滑るよう求めた.なお,滑走前には運動のリズムを言語的にリハーサルし,滑走中にはリズムを内的に言語化するように指示した.また,滑走後には,言語化した内容をテープレコーダーに収録した. その結果,ワンターンに要する時間は,スキー経験の少ない者ほどどのリズムにおいても長かった.また,早いリズムの方が,遅いリズムよりもリズムの違いを表現することが困難であった.さらに,経験の多い者は,早いリズムから遅いリズムまで正しい順序で表現していたが,経験の少ない者は,順序が逆転する場合があった.なお, 「音への変換」は,発声の長さや強弱で,リズムの違いを表現する場合(「サー,サー」と「サッ,サッ」など)と運動の長さを号令で表す場合(「イチ,ニ」と「イチ,ニ,サン,シ」など)がみられた. 運動のリズムを力の量と長さを表す適切な言語に変換し,それをもとに運動表象を形成することで,リズムを身体運動として表現することが可能になると考えられる.
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