1997 Fiscal Year Annual Research Report
美的感受性の発達と美術学習の適時性に関する実証的研究
Project/Area Number |
09780176
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
石崎 和宏 秋田大学, 教育学部, 助教授 (80250869)
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Keywords | 美的感受性 / 美術鑑賞 / 発達 |
Research Abstract |
本研究は、視覚美術に対する美的感受性の発達段階を明確化し、さらにその発達的知見から美術学習の適時性を実証的に解明することを目的としている。 本年度は、Parsonsの美的経験の認知的発達段階の仮説を援用し、美的感受性の発達を測定する簡潔で独自な方法を考案して研究を進めた。まず、Parsonsの示す発達段階の各ステージに対応するトピック項目を構造分析し、その知見をもとに質問紙を作成した。大学生への予備調査を経て、各ステージに理論的に明確に関係する項目の選択と修正を行い、質問紙を完成させた。この質問紙による調査を、高校生78人、大学生87人、成人58人に行い、Parsonsの成果と比較するとともに、発達段階と性別や、美術との接触経験のレベル等との相関を検討し、美術に関連して生得的に現れる特質、環境や学習によって後天的に獲得する特質について検討した。 その結果、高校生、大学生、成人いずれも、大半が第3段階に位置し、第4段階以上はわずかであった。このことは、米国でのParsons(1987)の調査や台湾での崔(1992)の調査と一致していた。また、美術専攻の学生や美術との接触度の多い群は、全体的に第4段階や第5段階の認知構造に移行しており、第4段階以降では、自然発達よりも学習による要因が大きく影響していることが示唆された。これもParsonsの仮説を支持する結果となった。 一方、複数の美術能力テストとの相関を成人の場合で分析してみると、相互に強い相関があるとはいえず、それぞれが測定した美的感受性の特性間には独立した関係があると推察された。そして、視覚美術における特定の美的特質への感受性が、その他の美的特質に対する感受性に必ずしも関連していなかったことは、美術学習の適時性を検討していく上でも、視覚美術にかかわる多様な美的特質の顕在化とその構造化が必要となることを示唆するものであり、今後の課題として提示した。
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