1997 Fiscal Year Annual Research Report
高度好熱菌アミノアシルtRNA合成酵素およびtRNAとの複合体のX線結晶構造解析
Project/Area Number |
09780597
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
濡木 理 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (10272460)
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Keywords | トランスファーRNA / アミノアシルtRNA合成酵素 / 蛋白質合成 / 校正反応 / X線結晶構造解析 |
Research Abstract |
イソロイシルtRNA合成酵素のX線結晶構造解析 生体内における遺伝情報変換の過程では、校正反応により高精度の変換が維持されている。遺伝暗号翻訳の過程では、例えばイソロイシルtRNA合成酵素(IleRS)は、L-バリンを誤認識しVal-AMP、Val-tRNAIleを合成するが、一方でtRNAIleの結合に依存して、これらの誤産物を加水分解することによって、アミノアシル化反応の誤りを校正する。実際に、熱力学的にはvan der Waals相互作用によるL-イソロイシンとL-バリンの識別因子は1/4程度であるにもかかわらず、IleRSの持つ校正反応によってin vivoでのイソロイシンのコドンがバリンに読まれる割合は、1/3000程度まで抑えられている。1970年代から、IleRSは第1のsieveでL-イソロイシン以下の大きさのアミノ酸を認識してアミノアシル化を行い、第2のsieveでL-バリン以下のアミノ酸を認識し加水分解することによりL-イソロイシンのみをアミノアシル化するという“double sieve model"が提唱されてきたが、その構造的な実体は全く明らかになっていなかった。我々は、高度好熱菌IleRSとL-イソロイシンおよびL-バリンの複合体の結晶構造を2.5A分解能で解明した。その結果、第1のsieveはRossmann fold domain上に存在し、イソロイシンおよびバリンを同様に認識していたのに対し、第2のsieveはRossmann fold domainから突出した校正ドメイン(βバレル構造)上に存在し、バリンを選択的に認識していた。この校正ドメインを欠くIleRS変異体を作成したところ、校正反応活性を完全に喪失し、L-バリンとL-イソロイシンをほぼ同じ効率でアミノアシル化することが明らかになった。さらにこのL-バリン特異的ポケットの近くには、全ての生物種のIleRSで保存されているThr230,His319,Asn237が近接して存在し、加水分解酵素で見られるcatalytic triadを形成していた。大腸菌のIleRSにおいてThr230とAsn237に対応する残基をAlaに置換した変異体を調製したところ、校正反応が完全に失活した。さらに我々は、エネルギー計算を行うことによりIleRSとtRNAIleのドッキングモデルを作成したところ、校正ドメインが180度回転してtRNAのDループと結合し定位されることにより、catalytic triadがアミノアシル化活性部位に接近し、アミノ酸の校正を行うことが示唆できた。この校正ドメインのトポロジーは、HIVやRSVのカルボキシペプチダーゼに良く似ており、進化の過程でイソロイシンとバリンを識別する必要が生じた際に、IleRSの触媒ドメインに取り込まれたとも考えられる。 他のアミノアシルtRNA合成酵素のX線結晶構造解析 高度好熱菌由来グルタミルtRNA合成酵素とtRNAの複合体に関しては、筑波高エネルギー研究所のシンクロトロン放射光を用いた測定により、2.6Å分解能のデータ収集に成功し、現在分子置換法により構造解析を行っている。高度好熱菌由来バリルtRNA合成酵素とtRNAの複合体に関しては、播磨Spring8のシンクロトロン放射光を用いた測定により、3.0Å分解能のデータ収集に成功し、重原子同型置換法による解析を試みている。高度好熱菌由来アルギニルtRNA合成酵素に関しては、播磨Spring8のシンクロトロン放射光を用いた測定により、1.8Å分解能のデータ収集に成功し、また重原子同型置換法により位相決定を行い、解釈可能な電子密度図の導出に成功した。
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[Publications] O.Nureki: "Enzyme structure with two catalytic sites for double-sieve selection of substrates" Science. (revised).
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[Publications] 濡木理: "「立体構造から見たグルタミルtRNA合成酵素の進化」" 生物物理. 37. 321-325 (1997)