Research Abstract |
われわれは,ラット小脳LTD誘発に伴って発現が上昇する遺伝子の探索を行ない,その候補として4遺伝子断片を得ていたが,平成10年度には,主にそのうちの一つについて解析を進めてきた。この遺伝子断片は,中枢神経系特異的に発現する,タンパク質をコードしていない新規のRNAに由来するものであった。このRNAについては,LTDとの関わりは明確ではないが,発現パターンには以下のような特徴が見られた。1.このRNAは,ラット生体の脳では強い発現が認められるが,他の組織(心臓,肺,肝臓,脾臓,腎臓,骨格筋,睾丸)ではほとんど発現がなかった。2.脳での発現分布を見たところ,ほとんどの部域の神経細胞で発現が見られたが,部域によって発現量に違いが見られた。特に発現量が多かったのは,大脳皮質では,海馬,嗅球,嗅皮質など,また,視床下部の視交差上核,視索上核などであった。全体的に見て,系統発生的に比較的古いと考えられている部域で発現量が多いと言える。3.発生中の中枢神経系では,増殖中の未分化な細胞では発現が認められず,分化を開始した細胞でのみ発現が見られる。そのため,全体での発現量の変化を見ると,受精10日目頃より発現が始まり,その後,より多くの細胞が分化段階にはいるにしたがって発現量は増加し,生後数日のうちに最大量に達する。4.細胞内では,このRNAは核に局在している。このような特徴は,このRNAの神経系固有の何らかの機能を果している可能性を示唆しており,われわれは大変興味を持ってその解析を進めている。
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