1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09834003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
柏崎 秀子 東京工業大学, 留学生センター, 助教授 (30221873)
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Keywords | 発話行為 / 語用論 / 談話 / コミュニケーション / 言語運用 / 言語理解 / 心的態度 / 丁寧さ |
Research Abstract |
日常の言語現象には、言語学が扱う語彙的及び統語的側面のみならず、言語使用者の一般的知識や事象の捉え方、ことばの使われ方など、語用論的な要素が不可欠である。そこは文を越えた談話の世界であり、言語現象に関わる者の認知的メカニズムに拠っていると考えられる。特に、「察しの言語」とも言われる日本語の発話の理解過程を深く知るためには、ある言語表現をもって、その使用者は外界をどのように認知し、どのような意味を表そうとしているのか、また、受け手はそこにどのような意味を汲み取るのか、語用論的観点から心的態度に着目する必要がある。単文では把握しにくい発話者の意図・心情を、我々はいかに捉えているかを談話レベルで検討し、話し手と聞き手が相互に心的態度を認知し合いながら談話を展開していく点を取り上げ、日本語の談話理解過程の一端の解明を試みた。まずは、日本語母語話者に対して分析を行い、談話全体として発話者の心的態度が認知されれば、目的遂行のための直接的な発話の言及が存在しなくても、その発話行為が成立し、談話レベルで丁寧さも認識され得ることが示された。 一方、このような発話行為の語用論的な側面がうまく機能しない場合には、コミュニケーションに支障をきたす。そればかりか、そのような誤りに対して対話者は、誤りを犯した人の言語能力が原因であると捉えるよりも、むしろその人自身のパーソナリティーに帰しがちな傾向が明らかになった。談話の運び方次第で他者の人格把握にまで影響を及ぼすということは、言語文化や価値観の異なる人々とコミュニケーションする機会が増加しつつある現代にあって、さらに検討を要する問題となろう。さらに、第2言語教育の在り方にも示唆を与えることとなろう。
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