1999 Fiscal Year Annual Research Report
種分化にかかわる雌による求愛歌識別の分子遺伝学的研究
Project/Area Number |
09839005
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小熊 讓 筑波大学, 生物科学系, 教授 (90114074)
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Keywords | 種分化 / 求愛歌 / 性的隔離 / ショウジョウバエ / 進化 / 雌による選択 |
Research Abstract |
進化過程において種が形成され、そのまま種として維持されるには、もとの種と派生しつつある種との間で、遺伝子の交流を防ぐ機構としての隔離が必要不可欠である。アナナスショウジョウバエ類(Drosophila ananassae complex)の近縁な2種であるD.ananassaeとD.pallidosaは同所的に生息しているが、交配後隔離が発達していないため、妊性のある雑種を形成する。これらが種として存続するには、交配前隔離における性的隔離が必要不可欠である。この性的隔離を維持するために求愛歌が重要であることが示唆されている。雄の求愛歌を雌が受容、識別する行動を明確にすることは、本2種における性的隔離の研究を推進する上での鍵となる。種間交配において、雌による求愛歌の受容・識別行動を解析することを本年度の目的とした。D.ananassaeとD.pallidosaとが同所的に採集された3地域の系統をそれぞれ用い、種間および種内交配を行なった。正常な雄、または、翅を切除した雄を用い、求愛歌のある時とない時とにおける交尾率を測定したところ、D.ananassaeとD.pallidosaの2種ともに、別種の求愛歌がある時は、求愛歌がない時よりも交尾率が低下した。別種の求愛歌がある時、雌が雄を拒絶し、交尾率が低下したと推定された。そこで、D.pallidosa雌を用いて、雌の行動を詳細に記録した。別種(D.ananassae)の翅あり雄(求愛歌あり)を用いたとき、D.pallidosa雌は必ず両翅を左右に振動させ、その直後に、雄の求愛が中断した。一方、同種(D.pallidosa)の翅あり雄を用いたときは、D.pallidosa雌が両翅を振動させることはなく、求愛の中断も見られなかった。また、翅なし雄(求愛歌を発しない)を用いたときは、両翅を振動させる行動はあまり見られなかった。したがって、雌は両翅を振動させ、求愛する別種雄を拒絶しているものと考えられた。以上の結果から、雌による求愛歌の受容、識別を行動のレベルで明らかにすることができた。これにより、人工求愛歌の生物検定が雌の行動のレベルで解析できると考えられる。
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