1997 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス詩とイタリア詩におけるプレ・モダニズム概念導入の妥当性
Project/Area Number |
09871075
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
辻 昌宏 明治大学, 経営学部, 助教授 (00188533)
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Keywords | プレ・モダニズム / 黄昏派 / 未来派 / 表現主義 / デカデンティズモ / モダニズム / エルメティズモ |
Research Abstract |
今年度は、イタリア語および英語文献を収集しつつ、モダニズムの前後の時代をどう分節するのが妥当であるかということを考察した。一つの出発点として、フランスの象徴派を設定するのは、伝統的な考え方であるが今でも妥当性を持っているのと思う。フランス象徴の中には、自由詩(無韻詩)を唱導したポール・アダンやギュスターヴ・カーンがいたからである。しかし、その一方で、フランス象徴派のデカデンティズモ(耽美派)の一つの運動でもあって、自由詩という技術革新をなしとげたにもかかわらず、ロマン派運動の終局的形態であると捉えることができる。イタリアに自由詩をもたらしたのは、ジャン・ピエトロ・ルチ-ニであったが、彼は一時は未来派に接近したこともあり、モダニズム以前の世界と新たな前衛をつなぐ存在であった。近年イタリアでは見直されているが、日本や英語圏での研究は遅れているので、さらに具体像をしらべてみたい。 世紀末まら今世紀初頭にかけての閉塞的状況の中で、デカデンティズモから脱却し、新しい詩法を切り開こうとした試みとして、その成果・到達点こそ異なるものの、黄昏派、未来派、ヴォ-チェ派を一つに括ることができるだろう。イギリス文学においては、ダウソンやジョンソンといった世紀末詩人、初期イェイツの後期ロマンティシズム(ケルトの薄明)、イマジズム、ヴォ-ティシズムといったところがこれに相当すると考えられる。新たな文学手法の確立が求められたのは、閉塞的時代状況と、これと無縁ではないが、ロマン派依頼の特権的な詩人・文学者像が信じられなくなったことが一因であろう。 前衛運動のきっかけとして、ドイツでおこった表現主義の影響が想像以上に重要であることがわかった。これは、もともと、造形芸術の分野から発生しているが、小市民的文化への反発という点で他の運動とも共通している。
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