1998 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス詩とイタリア詩におけるプレ・モダニズム概念導入の妥当性
Project/Area Number |
09871075
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
辻 昌宏 明治大学, 経営学部, 助教授 (00188533)
|
Keywords | 黄昏派 / デカダンス派 / ブルジョワジー / コラッツィーニ / パスコリ |
Research Abstract |
本年度は、特に、イタリアの黄昏派とイギリスの世紀末詩人をデカダンス主義の一つの現象ととらえ、デカダンス主義の社会的性格とその由来について研究した。黄昏派の詩の文体は、ダンヌンツィオに対する反発と、パスコリへの親近感に強く彩られたものであり、また詩の中で扱われる素材は、日常生活や卑近なものに過度に集中し、英雄ではなく、名もない人、社会から疎外された人の素朴な生活の一齣を描く。ロマン派に見られるような、日常を超えた理想を高らかに歌うことがきわめて少ない。その理由を探ると、啓蒙主義時代に人間社会の矛盾が理性によって超越あるいは解消されると唱えられ、ロマン派においてもそれが受け継がれ、自由や正義が歌われていたのだが、フランス革命の挫折により、その理想主義が信じられなくなる。そこから、19世紀後半のデカダンス主義が生じる。つまり、社会に対する変革を信じられなくなったデカダンス派の詩人(ボードレールの一部およびヴェルレーヌ、マラルメらから生じ、イタリアやイギリスに波及していく)は、自分の作品世界に閉じこもるようになる。一方で、社会・経済・文化における主導権は、フランス革命以降、19世紀のヨーロッパではブルジョワジーに移行するが、ブルジョワジーの関心が社会的な成功や金銭的なものに集中するため、芸術家たちはブルジョワ的価値に激しく反発する。社会から、芸術家が孤立し、疎外され、芸術家は社会の中で一種の異邦人感覚を抱くようになる。一方で、芸術家たちは、自分たちの美的、文化的優越を強く意識するようになる。そういった屈折した意識のなかで、コラッツィーニらの黄昏派は、日常生活に結びつけた形で、自分らの社会的な無力感、倦怠を歌い、現世からの逃避願望を抱いていた、と考えられる。
|