Research Abstract |
(1)春闘は,これまで日本の賃金交渉制度として安定的に機能してきた.だが,近年,春闘から離脱する企業が現れたり,交渉方式を見直す組合が出てくるなど,明らかに根本的転換期に入りつつある.本研究の目的は,《実験的》・《実態的》・《事例分析的》調査方法を用いて,賃金交渉制度としての春闘の現状とその将来展望を明らかにすることである.その際,本研究のもっとも特徴的な点は,春闘当事者である労使の賃金交渉責任者に対して,《実験的》ならびに《実態的》アンケート調査を行い,加えて《事例分析的》聞き取り調査を実施することにより,春闘の現状と変化方向を厳密に把握するところにある.本年度は,先行する研究や調査の展望を行った上で,春闘における賃金交渉を実際に行っている担当者を対象として,《事例分析的》聞き取り調査を実施した. (2)まずはじめに,本研究に関連する研究文献の包括的サーベイを行った.とりわけ,日本における著作や関連文献を再度吟味し,現時点で春闘を分析する際,どのような点に留意しなければならないかを確認した.これに加えて,実験的アンケート調査の準備作業をかねて,D.Levine(1993)"Fairness,Markets,and Ability to Pay"AmericanEconomic Review,83-5や,C.Olson et al.(1992)"A Comparison of Interest Arbitrator Decision-Making in Experimental and Field Setting"Industrial andLabor Reations Reviews,45-4に代表される一連のPolicy Capturing Approachによる実験的実証分析の成果と問題点を把握した. (3)しかる後に,聞き取り調査を実施した.調査対象は賃金交渉担当者である.とりわけ,春闘による賃金交渉方式に見直しを行う予定のある組合に対して,その具体的内容,実施時期,背景などに関する調査を実施した.具体的には,本年から複数年協定に移行する鉄鋼労連,すでに個別賃金方式に移行し65歳定年制要求なども揚げた電機連合,及びそれらとは一線を画するパターン・セッター自動車総連の担当者にヒアリングを行った.なお,当初計画では、第1年度からアンケート調査を行う予定であったが,予備的研究を行い計画を慎重に見直した結果,まず聞き取り調査によって,調査対象の実態を把握することとした.
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