Research Abstract |
脊髄損傷は,重篤な運動・知覚障害を引き起こす難治性疾患のひとつで,病態の解明および的確な治療法の確立が急務とされる.本研究では,脊髄損傷後の細胞傷害過程を詳細に理解するため,グルタメート毒性,ラジカル発生の関与のほか,神経再生・修復能を高める神経栄養因子の果たす役割を明らかにし,また,有用な薬剤の臨床応用に向け基礎的基盤を得ることを目的とする. 初年度では,雄Sprauge-Dawleyラット(300-350g)を用い,1)脊柱管狭窄症,および,2)脊髄虚血モデルにおける病態生理学的検討を中心に行った.その結果,1)では腰部馬尾神経圧迫により運動抑制と合わせ,知覚過敏が起き長期的に持続し,ヒトにおける馬尾神経性間欠跛行,腰痛の臨床症状を良く反映することを確認した.この場合,損傷周辺部(とくに脊髄介在ニューロンと運動ニューロン周辺の小型細胞)でapoptosis(TUNEL染色)がみられ,また一部では細胞の早期変性を示す銀沈着(Nauta法)が認められた.これらの障害は,PGE1誘導体投与により著しく改善された.したがって,脊髄圧迫により循環障害に起因したとみられる運動,知覚障害が,特定細胞(介在ニューロン,前角小型ニューロン)のapoptosisに伴い発現する可能性が初めて明らかになった.2)では胸部下行大動脈にバルーンカテーテルを挿入し,バルーン膨張で大動脈を閉塞した.低血圧を負荷し閉塞時間は5,8,10分間,あるいは閉塞のみ20分間群に分けた.その後バルーン膨張を解除し,再灌流した.その結果,5分群ではapoptosisは再灌流1時間で介在ニューロンに発現した後,消失し,8分群では1,4時間で発現し,また10分群ではapoptosisはほとんどみられず,8時間で銀沈着が著しかった.20分間群では,8時間で一部の介在ニューロンにapoptosisが起き,他は銀沈着が散在的に認められた.以上のことから,脊髄の虚血性病態は,1)選択的脆弱細胞群が存在すること,2)細胞の傷害過程は,虚血性侵襲に依存すること,3)necrosisのみでなく,核内プロセスの変調からapoptosisが発現し,知覚,運動機能の障害を引き起こすものと理解される. 今後,apoptosisと関連したc-fos遺伝子発現があるか否か,さらにこれらが神経栄養困子,ラジカルやサイトカインとどのような相互関係にあるかをそれぞれの阻害薬投与で検討し,また神経栄養因子がapoptosisを含めた損傷隣接部の神経細胞死を抑止できるかどうか,グリア反応と隣接部位でのシナプス再構築,および運動・知覚機能の修復を評価する.
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