1997 Fiscal Year Annual Research Report
トレハロースを用いる臓器の長期低温保存に関する基礎的研究
Project/Area Number |
09878209
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
井上 義夫 東京工業大学, 生命理工学部, 教授 (60016649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅川 直紀 東京工業大学, 生命理工学部, 助手 (80270924)
櫻井 実 東京工業大学, 生命理工学部, 助教授 (50162342)
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Keywords | 臓器保存 / トレハロース / リン脂質 / 細胞膜 / NMR |
Research Abstract |
一般に、細胞の凍結状態では、自由水は失われているが細胞膜の周囲に結合水(あるいは不糖水)は残っている。したがって、トレハロースによる臓器の凍結保存のメカニズムを解明するためには、少なくとも結合水程度の水が残存する系で、この糖が膜とどのうような相互作用をするか調べる必要がある。本年度は、intact cell(酵母)とモデル系(DPPCリン脂質二重膜)を用いた実験により、次の成果を得た。 1)トレハロース含量の異なる酵母を調製し、細胞内の水状態を重量熱天秤と^1H NMR法により評価した。その結果、細胞内に蓄積されたトレハロースは、その量が菌体乾燥重量に対し3%を越えると、細胞膜表面の結合水に置き換わって膜表面に結合するらしいことが判明した。これらの実験と並行し、凍結乾燥ストレスに対する生存率の測定を行ったところ、やはりトレハロース含量3%を境に大きな変化が見られた。すなわち、トレハロース含量3%以下の細胞は完全に死滅するが、それ以上含む細胞では有為な生存率を示した。以上より、トレハロースは結合水の代理として働くことにより、細胞を凍結から保護することが示唆された。 2)3〜10重量%の水を含むDPPCリポソーム/トレハロース混合系を調製し、DSC、^<31>PCP/MAS NMRおよびFTIR等を用いて、トレハロースと膜表面の相互作用を解析した。その結果、膜がゲル状態にある場合、トレハロースは結合水を挟んで膜表面と間接的に相互作用していることが判明した。また、NMR実験より、膜表面の糖・水混合物はゲル化した膜を可塑化する役割を果たすことがわかった。この事実は、次のように解釈される。すなわち、この糖は膜を柔軟に保つことにより乾燥や凍結に伴う膜構造の破壊(ひび割れ等)を防いでいる、と考えられる。
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[Publications] 櫻井 実: "糖の水和とトレハロースの生理機能" 生物物理. 37・1. 326-330 (1997)
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[Publications] Minoru Sakurai: "Molecular Dynamics Study of Aqueous Solution of TreRalose and Maltose" Bull.Chem.Soc.Jpn.70・4. 847-858 (1997)