2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J00076
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸岡 歩 東京大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 記憶 / 線条体 / 恐怖条件付け |
Research Abstract |
これまでの研究から線条体は弱い電気ショックを与えたときの恐怖条件付けに関与することが示唆された。さらに痛覚感受性の変化に起因しないこと、freezing反応そのものの表出には関与しないこと、記憶の長期的な保持に関与する一方で、記憶の獲得段階には関与しないことが示された。そこで本年度は、線条体におけるシナプス可塑性が恐怖記憶の成立に関与するかどうかを検討し、以下の2点を明らかにした。 1.シナプス可塑性は、その誘導にNMDA受容体が必要であり、新規のタンパク合成を経て、長期的に安定化される。そこで、まずNMDA受容体を線条体特異的に欠損させ、恐怖記憶への影響を解析する。線条体選択的なCrePRマウス系統を、NMDA受容体の必須なサブユニットであるGluRζ1遺伝子をloxP配列で挟んだfGluRζ1マウス系統と交配した。NMDA受容体の欠損をWestern Blotと免疫組織学的手法で検討した。得られた線条体特異的なNMDA受容体欠損マウスに弱い電気ショックによる恐怖条件付けをおこなったところ、24時間後の恐怖記憶は傷害された。 2.次に、タンパク質合成阻害薬であるアニソマイシンを条件付けしたマウスの線条体に投与し、24時間後の恐怖記憶を解析した。条件付けから投与までの時間を変化させることで、条件付けの後どれくらいの期間でのタンパク合成が恐怖記憶に関与するのかを検討した結果、条件付けから1時間から3時間の間に線条体においてタンパク合成が重要であると示唆された。 生物は生き残るために、記憶を用いて迫り来る危険を予測し、適応的な行動を取る。「弱い恐怖記憶の長期保持に線条体が必須になる」という事実から、私たちが日常体験する程度の穏やかな危険に対して、線条体が取るべき行動を判断しているのではないかと考えている。本年度の研究結果は、より現実的な危険に対する脳の働きを提唱するだけでなく、恐怖が原因となる不安障害の新たな予防・治療法の開発にも発展する可能性がある。
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