2009 Fiscal Year Annual Research Report
溶液中のプロトン移動に対する核の量子性を取り込んだ準量子的動力学理論の開発と応用
Project/Area Number |
09J00517
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
城塚 達也 Kyoto University, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | プロトン移動 / 振動緩和 / 溶媒和 |
Research Abstract |
本年度は、希釈フッ化水素酸中の振動緩和とプロトン移動に関する研究を中心に進めてきた。希釈フッ化水素酸は以下に上げる2つの特異な物性を持つことで有名である:(1)希釈フッ化水素酸は弱酸だが他のハロゲン化水素酸や濃フッ化水素酸は強酸。(2)温度が下がると酸性度が上がる。また、安藤らはHFを赤外光で励起するとプロトン移動が起こりやすくなると示唆し、これは凝縮相中の基底状態コヒーレントコントロールの応用例としても興味深い。よって、本研究では多状態経験的原子価結合法(MS-EVB)を用いて希釈フッ化水素酸中の弱酸性の原因となる水素結合ネットワークと赤外励起プロトン移動のダイナミクスの解明を目的とする。まず、希釈フッ化水素酸中の弱酸性の原因の一つとして四面体性オーダーパラメーターQ(Tetrahedrarity)に着目した。プロトン移動の反応物から生成物までにF原子やO原子付近のQがQ(F)=0.46から0.65、Q(O)=0.63から0.45と大きく変化することが分かった。これは四面体性が「移動している」ことを示し、Qがプロトン移動におけるエントロピー変化の指標となりうる可能性を秘めていることを示唆している。さらに、非平衡MDを行った結果、HFの振動緩和と溶媒の再配置の時定数はそれぞれ100から200,50から100fsとなることが分かった。この結果からHFを振動励起した後、遷移状態で反応物と生成物が半分ずつに振り分けられる描像ではなく、振動緩和と溶媒の再配置が競争的に進行し従来提唱されていた描像と異なることが分かった。
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Research Products
(2 results)