2009 Fiscal Year Annual Research Report
ニコラ・プッサンと同時代のローマの画家たちの物語画に関する研究
Project/Area Number |
09J00845
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
倉持 充希 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ニコラ・プッサン / 芸術愛好家 / 版画学習 / 北方絵画 / ボローニャ派 / 盛期バロック / 受容 / 競合と差異化 |
Research Abstract |
本研究は、フランス古典主義絵画の祖として知られるニコラ・プッサンの物語画について、それらが芸術家間の競合が激しかった17世紀前半のローマにおいて制作された点に着目し、過去および同時代の諸作品との関連を再検討することを通じて、その独自性を明らかにすることを目的とする。本年度は、プッサンが着想源としたルネサンス絵画、比較対象となる同時代のローマの画家たちの作例、芸術愛好家の財産目録・伝記等を調査し、以下の具体的な新知見を得た。第一に、プッサン作《羊飼いの礼拝》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)に関する作品研究では、画家がデューラーの版画にみられる空間構成を熱心に学習し、自身の物語画の舞台設定に応用していた点に加え、ボローニャ派のアンニバレ・カラッチの同主題作品から強い刺激を受けながらも、北方画家が得意とした古代遺跡や花々の細密描写を展開したことが判明した。第二に、《紅海渡渉》(メルボルン、ヴィクトリア美術館)と《黄金の子牛の礼拝》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)の対作品でも、登場人物の感情を豊かに描き分けるために、ファン・ヘームスケルクの原画に基づくハレの版画を視覚的源泉としていたことが確認できた。上記2作品は、コルトーナとロマネッリによる対作品と共に連作を成していたが、注文主のアメデオ・ダル・ポッツォの財産目録を精査した結果、4点の主題がピサ大聖堂主祭壇画に基づいて厳選された可能性が高いことが判明した。 以上のように、1630年代前半という過渡期において、プッサンがデューラーやハレといった北方版画を学習していた点は、画家の語法形成とアルプス以北の造形表現との関連について、今後も検討する必要性を示すものであった。また、今回の事例研究によって、競作の場における画家の戦略や、アンニバレに言及しつつ差異化を図ろうとする意識が明らかになり、プッサン芸術の特質の解明につながる見解が得られた。
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Research Products
(4 results)