2009 Fiscal Year Annual Research Report
縮合多環π共役系を基盤とした空気中でも安定なスピン非局在型の開殻有機分子の開発
Project/Area Number |
09J01185
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 顕 Osaka University, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 開殻有機分子 / 有機π電子系 / 安定中性ラジカル / スピン非局在化 / キラリティ / 電子スピン共鳴 / フロンティア軌道エネルギー |
Research Abstract |
「研究の目的」および「研究実施計画」に記載した縮合多環π共役型の空気中でも安定なスピン非局在型の開殻有機分子(ラジカル)を開発した。具体的には、電子受容性置換基であるエステル基を導入したTOT誘導体とヘリセン構造を有する非平面π共役型ジアザフェナレニル誘導体を合成し、空気中でも安定な固体として単離することに成功した。合成した化合物の純度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)により確認し、電子スピン共鳴(ESR)や紫外可視吸光(UV-vis)スペクトル、サイクリックボルタモグラム(CV)測定、円二色性(CD)スペクトル測定などの各種の分光学的手法および電気化学的測定により、その分子構造や電子スピン構造を詳細に調査した。 その結果、いずれのラジカル分子においても、電子スピンが巨大なπ共役型の分子骨格全体に広く非局在化していることが分かった。この電子スピン非局在化がラジカルの安定化に大きく寄与したと考えられる。そのため、安定化にほとんど寄与しないエステル基を導入したTOT誘導体においても高い安定性が得られたと言える。この知見は、安定なラジカルを開発する上で重要な設計指針となると考えられ、大変意義深い。また、これらのラジカルは電子的にも非常に興味深い性質を示した。TOT誘導体においては、導入した置換基がフロンティア軌道エネルギーに大きく影響を与えることが分かった。さらに、非平面π共役型ジアザフェナレニル誘導体は、ヘリセン構造に起因するキラリティにより不斉光学効果を示した。従って、このラジカルは初めてのスピン非局在型キラル中性ラジカルであることが分かった。
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