Research Abstract |
本研究の目的は,MarkusやKitayama, Nisbettらを中心とする文化心理学者によってまとめられてきた「心の文化差」を,特定の社会状況のもとでの"デフォルト"戦略の反映として理解するとともに,特定の社会における人々の信念や認知様式の違いが,どのような制度(安定した誘因構造)を生み出し,また,それがいかなるプロセスを経て自己維持的に人々の信念や行動を安定的に再構成するかについて,理論的かつ実証的に明らかにすることにある。初年度である平成21年度には,上述の目的をかなえるための個別研究をいくつか実施している。その一つが,相互協調的・集団主義的信念の自己維持プロセスを明らかにするための実証的研究であり,複数の研究から,まず現在の日本人は,相互協調的な心のあり方や生き方を必ずしも好ましく受け入れているわけではないこと,そして日本人にとっての相互協調性とは,あくまで文化的に「共有」された信念であることを明確にした。さらに,相互協調行動を採用する人に対する印象を尋ねた研究の結果から,相互協調的に振舞うことで他者から好意的な反応を得るだろうという予測,ないしその予測を生み出す文化的共有信念こそが,日本人に相互協調的な振る舞いをさせる「誘因」となると同時に,この誘因にしたがう行動そのものによって相互協調行動が維持され,そうした行動に関する信念(相互協調的信念)もまた共有され維持されるというプロセスについて実証的な検討を加えた。文化特定的行動と信念システムが自己維持されるメカニズムについて考察することは,心理学,とくに文化心理学の分野で扱われてきた「心と文化のマイクロ=マクロ・ダイナミックス」を解明するための重要な手がかりを提供すると考えられる。今年度実施した研究に加え,更に,実証的な研究を進めていくことが,来年度以降の目標である。
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