2010 Fiscal Year Annual Research Report
制度アプローチによる「心の文化差」の理論的・実証的検討
Project/Area Number |
09J02171
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
橋本 博文 北海道大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 文化的信念 / 社会的ニッチ構築 / 適応 / 相互協調性 / ゲーム理論 |
Research Abstract |
本年度は,前年度に実施した信念の自己維持プロセスを明らかにするための研究を進展させるべく,まず協調的・集団主義的信念の内容に着目した。適応論の観点を採用する申請者のアプローチからは,協調的・集団主義的な信念はあくまで,集団からの排除リスクを最小化する適応戦略の採用を促すのに有効な"ツール"として理解される。しかしこうした理解は,協調的・集団主義的な信念についての一般的な理解(相手の立場や心情を考慮したうえで相手と接するという意味での「思いやり」や「察し」に代表される信念)とは幾分異なっている。そのため,これまで文化的な信念を測定するために文化心理学の分野で開発されてきた心理尺度を再構築するかたちで,協調的・集団主義的信念の二つの側面(人間関係の網の目を上手に作るべく行動するという側面と,人間関係の網の目を壊さないように慎重に行動する,いわば「波風を立てない」という側面)を弁別する作業に着手した。学生および一般人を対象とする調査を通じて,この二つの側面を弁別するための尺度の信頼性と妥当性を示すと同時に,後者の「波風を立てない」という側面を測定する尺度への回答傾向と社会的なストレスに対する敏感性が正相関を示すことを,生理指標を用いるかたちで明らかにした。そしてそのうえで,信念の文化差が示されるのは協調性・集団主義性の「波風を立てない」という側面であることを日米の大学生を対象とする調査を通じて明確にした。これらの点をひとつひとつ実証していくことは,文化的に共有されている信念に従う行動そのものが他者の行動の誘因となることによって,集合的なマクロパタンとしての「文化」(≒制度)が生成・維持されるという点をデモンストレートすることを目指す本申請研究にとって重要な作業である。最終年度である来年度には,これまでに得られた成果をまとめると同時に,引き続き個別研究を重ねていく予定である。
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