2010 Fiscal Year Annual Research Report
チンパンジーにおける「行為する自己」の認識 ― 自己認識の比較認知科学的研究
Project/Area Number |
09J02668
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
兼子 峰明 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC1)
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Keywords | Sense of self-agency / 自己認識 / チンパンジー / 随意運動 / 比較認知 / 行為の主体感 |
Research Abstract |
本研究では、行為の主体感形成に関するヒトとチンパンジーの類似・相違点を調べた。行為の主体感(Sense of self-ageney)とは、「自分の意図したとおりに環境に働きかけることができる」、「自分の意志が行為の源である」といった、自己の随意的な運動に伴う主観的な感覚のことをいう。このような感覚が生じる背景には、環境中に生じた変化が自己に由来するものなのか他の要因によって生じたものなのかを区別することが必要となる。そのメカニズムとして考えられているのが、行為の結果生じることに対しての予測と実際に知覚された結果を比較照合する過程だ。予測と結果が一致する場合は、自己由来であると判断される。 前年度までの研究では、チンパンジーもこのようなメカニズムに基づいた自他判断が可能であり、行為の主体感を感じる基盤となる認知メカニズムをヒトと共有していることを示した。本年度の成果として、ヒトとチンパンジーでは自他判断の際の比較照合に用いる情報の内容が異なることを示した。随意運動は、行為の"目標"と"運動軌跡"という2つの異なる次元の情報で表現することができる。チンパンジーでは、行為の目標における予測と結果の一致が自他判断な重要な要因であり、運動軌跡はあまり自他判断に貢献しなかった。一方ヒトではいずれの情報も有効に自他判断にもちいることが示された。 ヒトにおいて行為の主体感は自己意識の根幹となり我々の精神生活において重要な位置をしめる。本研究で示したチンパンジーとヒトの種差は、行為の主体感が進化の過程でどのように獲得されてきたのかを理解するための重要な実証的手がかりとなると期待される。
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