2010 Fiscal Year Annual Research Report
自己集合半導体単一量子ドットにおける光励起核スピン分極の双安定特性の研究
Project/Area Number |
09J03255
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鍜治 怜奈 北海道大学, 大学院・工学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 単一量子ドット分光 / 光誘起核スピン分極 / 異方的交換相互作用 / 歪み誘起価電子帯混合 / 発光円偏光度 / 電子-核スピン相関時間 / 電子スピン緩和時間 |
Research Abstract |
本年度は,半導体量子ドット(QD)の核スピン分極形成過程において多大な影響を及ぼす電子スピンダイナミクスの解明を目的とし,以下の2点に研究の力点をおいた. 1)歪誘起価電子帯混合が発光偏光度に及ぼす影響の考察 QD発光の偏光度(DOP)は,面内形状の対称性低下に起因する異方的交換相互作用(AEI)に加えて,歪分布の異方性による価電子帯混合(VBM)を受けて複雑に変化する.本年度はこれらの異方性が自己集合QD発光のDOPに及ぼす影響を詳細に調査した.まず交換相互作用が働かない正の荷電励起子(X^+)発光のDOPからVBMの効果を吟味し,その後,同一QDを起源に持つ中性励起子発光に着目して,VBMとAEIの複合効果がDOPに及ぼす影響を実験・計算の両面から考察した.成長過程で残留歪みを内包しやすい自己集合QDが広く使用されているにも関わらず,III-V族化合物半導体QDにおけるVBMの報告例は少なく,今回の結果はDOP観測を礎とするあらゆる測定結果を解析する上で有益な情報を与える. 2)電子-核スピン相関時間と電子スピン緩和時間の評価 現行の核スピン分極(NSP)形成モデルにおいて,電子-核スピン相関時間(τ_c,)と電子スピン緩和時間(τ_<s0>)は重要なパラメータである.前者は電子核スピン結合系における準位の均一広がりを与える時定数,後者はNSPの源となる電子スピン系の縦緩和時間であるが,本年度は電子スピン分極の指標としてX^+の発光円偏光度(DCP)を用いて,両物性値の実験的評価を行った.実効磁場(外部磁場とNSPによる合成磁場:B_<eff>)に依存する電子スピン緩和機構を想定し,X^+DCPをB_<eff>の関数としてプロットしたところ,B_<eff>~0近傍でDCPが極小(電子スピン緩和レートが極大)となることが確認された.解析からτ_c~80ps,τ_<s0>~3τ_R(τ_Rz:励起子発光寿命~0.75ns)が得られたが,これらはモデル計算から推定される値と良く一致する.これが単一QDにおける初めてのτ_cの実測例である点は特筆すべきであるが,NSP形成に関する重要なパラメータを実験的に評価できたことは大きな意義がある.
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Research Products
(8 results)