2010 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀パリの音楽雑誌におけるピアノ音楽に関する言説
Project/Area Number |
09J05270
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
塚田 花恵 東京芸術大学, 大学院・音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 西洋音楽史 / 音楽批評 / 楽譜出版 / 芸術 / 文化産業 / 19世紀 / ピアノ / フランス |
Research Abstract |
本研究の目的は、音楽雑誌に掲載されたピアノ作品批評から、19世紀前期のパリにおけるピアノ作品受容のあり方を明らかにすることである。より具体的には、批評家がピアノ愛好家に対して作品の価値を説明する際の評価の観点を詳らかにし、ピアノ音楽が「芸術作品」として受容されるようになるプロセスを、明確にすることである。平成22年度は、前年度の成果を踏まえて調査を継続し、1830年代に『ルヴュ・エ・ガゼット・ミュジカル・ド・パリ』誌(『ガゼット』誌)に掲載されたショパン作品批評が、19世紀フランスのピアノ音楽の受容者にとっていかなる意味を持つものであったのかという点を、考察した。 まず、19世紀初期のフランスの音楽雑誌の調査した結果、『ガゼット』誌以前の音楽雑誌のピアノ作品レビューは、商品解説としての性格が強いものであったことが明らかになった。次に、『ガゼット』誌のピアノ作品レビュー欄全体の状況を調査したところ、1830年代にはショパンの作品数が極めて多いことが確認された。したがって、創刊直後の『ガゼット』誌においてショパン作品レビューは重要な位置にあり、そのレビューのあり方-すなわち、「流行」と「芸術」の違いを強調し、作品全体の「統一性」という点から芸術性を解説するような評価方法-は、歴史的に見て新しいピアノ作品レビューのスタイルであることが明確になった。 それらのレビューは、1830年代のフランスでドイツ器楽の受容に貢献したフランソワ・シュテーペルという批評家が執筆したものである可能性が高い。ショパン作品のレビューにも、作品を作曲家の精神の顕現として捉えるようなドイツ的な器楽観が反映を確認することができた。 以上、19世紀前期のフランスのピアノ作品受容において、『ガゼット』誌のショパン作品の批評が、娯楽のための商品としてではなく「芸術作品」としての受容のあり方を促すうえで、重要な役割を果たしたことが明らかになった。
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