2009 Fiscal Year Annual Research Report
擬二次元遷移金属酸化物における電荷スピン軌道秩序相の低エネルギーダイナミクス
Project/Area Number |
09J05941
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
打田 正輝 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関電子系 / 角度分解光電子分光 / 酸化物高温超伝導体 / 電荷秩序 / 金属絶縁体転移 |
Research Abstract |
強相関電子系では電荷・スピン・軌道といった電子のもつ多自由度が顕在化しており、特にその秩序や揺らぎと関連して絶縁体金属(モット)転移近傍で多くの巨大応答が発見されている。本研究で対象としている擬二次元遷移金属酸化物R2-xAxMO4(R=希土類元素、A=アルカリ土類元素、M=3d遷移金属)は、多彩な電荷スピン軌道秩序相が見出される系として有名である。本年は特にM=Niのモット転移近傍(x~1)の電荷ダイナミクスに着目して研究を行った。これは高温超伝導を示すM=Cuの場合と対照的な物質であり、その電子構造の共通点・相違点に興味が持たれる。本系は低Srドープ域においてストライプ型の電荷・スピン秩序相(x~1/3)、チェッカーボード型の電荷秩序相(x~1/2)を示し、それらの融解を経てx~1においてモット転移を示す。しかし、高Srドープ領域(x〓0.8)においては単結晶作製が非常に困難であるため、モット転移に関する電子状態変化はほとんど明らかとなっていなかった。我々はRの種類を最適化し高圧フローティングゾーン(FZ)法を行うことでx=1.3までのR2-xAxNiO4単結晶試料の作製に成功し、輸送特性や反射率の測定を行なうことでモット転移近傍における系の電荷ダイナミクスを明らかにした。x~1.3では通常の金属的振る舞いを示すのに対し、転移近傍に位置するx~1.1ではホール係数が低温に向かって増大するなど異常な金属的性質が見られた。また、このような転移近傍の組成では最低温の面内光学伝導度スペクトルにおいて0.2eV程度のはっきりとした擬ギャップ構造を示すことが明らかになった。この構造はチェッカーボード型の電荷相関に起因するものでであり、このようなx2-y2軌道における高エネルギーの電荷相関が高ドープ域まで残ることでモット転移近傍における系のダイナミクスを支配していると考えられる。 我々は上記の輸送・光学測定のみならず、層状ペロブスカイト型Ni酸化物(Eu0.9Sr1.1NiO4)のレーザー角度分解光電子分光測定にも初めて成功した。観測されたフェルミ面は(pi,pi)を中心とする大きな一枚のフェルミ面であり、直線偏光を用いた偏光解析により主にx2-y2軌道から成ることが明らかになった。よって、本Ni系における物理は高温超伝導を示すCu酸化物系と同様にNi3dx2-y2,O2px,2pyの3つの軌道で記述されると考えられる。また、オフノード方向へと近づくにつれて、ノード方向ではっきりと見えていた準粒子ピークは抑えられ、ギャップ的な構造がフェルミエネルギー近傍に現れ始めることが明らかになった。この振る舞いはアンダードープ系のCu酸化物で共通して見られる大きな擬ギャップ構造と非常によく類似しており、高温超伝導体では超伝導ギャップへとつながっていく本質的な性質であると考えられている。この擬ギャップは輸送・光学特性とも良く一致することから、本系のモット転移近傍の電荷ダイナミクスを支配する性質であることが分かった。Cu酸化物では擬ギャップの起源として様々なモデルが提唱されているが、本Ni系においては反強磁性相互作用が一桁小さいことから、上述のようにチェッカーボード型の電荷相関がその起源であると考えられる。
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Research Products
(3 results)