2010 Fiscal Year Annual Research Report
擬二次元遷移金属酸化物における電荷スピン軌道秩序相の低エネルギーダイナミクス
Project/Area Number |
09J05941
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
打田 正輝 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関電子系 / 金属絶縁体転移 / 酸化物高温超伝導体 / 角度分解光電子分光 / X線吸収分光 / 共鳴X線散乱 |
Research Abstract |
強相関電子系では電荷・スピン・軌道といった電子のもつ自由度が顕在化しており、特にその秩序や揺らぎと関連し絶縁体金属(モット)転移近傍で多くの巨大応答が発見されている。層状ペロブスカイト型Ni酸化物R2-xSrxNiO4(R=希土類元素)は、高温超伝導Cu酸化物と対照的な物質であり、その電子構造の共通点・相違点に興味が持たれている。また、本系は多彩な電荷スピン軌道秩序相が見出される系としても有名であり、低Srドープ域においてストライプ型の電荷・スピン秩序相(x~1/3)、チェッカーボード型の電荷秩序相(x~1/2)を示し、それらの融解を経てx~1においてモット転移を示すことが知られている。我々は前年度に引き続き輸送・分光測定を行なうことでモット転移近傍における系の電荷ダイナミクスを明らかにしてきた。前年度の研究により、転移近傍の組成では、最低温の面内光学伝導度スペクトル及び(pi,0)付近の角度分解光電子スペクトルが0.2eV程度のはっきりとした擬ギャップ構造を示すことが明らかになっている。この振る舞いはアンダードープ系のCu酸化物で共通して見られる大きな擬ギャップ構造と非常によく類似しており、超伝導ギャップへとつながっていく本質的な性質であると考えられているが、本系においてはこれからx2-y2軌道におけるチェッカーボード型電荷相関が高ドープ域まで残りモット転移近傍における系のダイナミクスを支配していると予測される。我々はx=0.3-1.1の広いドープ領域におけるNi-L端・O-K端のX線吸収スペクトルを測定し、軌道成分の組成変化を実験的に詳しく見積ることに成功した。特にO-K端のpre-edge領域において、x=0.5-0.6,0.9-1.0の間で新たなピークが不連続に現れ始めることを観測した。前者はx>0.5で3z2-r2軌道に新たにホールがドープされ始める直接的な証拠、後者はx2-y2・3z2-r2軌道がともに空となったサイトができ始めチェッカーボード相関が弱まることで金属的状態が現れ始めることに対応していると考えられる。さらに、チェッカーボード相付近に位置するx=0.4-0.6についてNi-K端・L端での共鳴X線散乱実験を行うことにより、電荷秩序相における複雑な軌道状態及びチェッカーボード相と共存すると考えられているストライプ相における磁気状態について明らかにした。以上の結果は層状Ni酸化物における電荷秩序形成とそれに伴うスピン・軌道状態の変化を詳しく明らかにしており、高温超伝導Cu酸化物との比較の上でも重要な意味を持つ。
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