2009 Fiscal Year Annual Research Report
記憶の統合・変遷とそれに関わるエピジェネティックな制御の解明
Project/Area Number |
09J06051
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
平野 恭敬 Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research, 東京都神経科学総合研究所, 特別研究員(SPD)
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Keywords | ショウジョウバエ / 記憶 / エピジェネティクス |
Research Abstract |
長期記憶の獲得には神経機能に関わる遺伝子の発現誘導が必須である。遺伝子発現制御において、クロマチンの構造を決定するエピジェネティックな制御が重要な役割を果たしている。私は、エピジェネティックな制御を介するクロマチンの構造変化、およびその構造維持により、長期記憶が獲得、『そして維持されるのではないかと考えた。私はショウジョウバエをモデル生物として用いて、まず、エピジェネティックな制御が長期記憶に関与するであろうことを遺伝学的に検証し、それを示唆する結果を得た。現在、エピジェネティックな変化を検証するための新しい手法を立ち上げている段階である。 私はまた、時間経過に伴う長期記憶の衰退は、記憶を保持しているが思い出せないという状態(非想起型記憶)への変遷の結果ではないかと考えていた。この非想起型記憶への移行は、エピジェネティックな制御が減衰するために起きるのではないかと想定していた。しかしながら、ハエにおいて長期記憶の減衰は観察しにくいことがわかった。従って私はショウジョウバエを用いて非想起型記憶の存在を実証することは難しいと結論付けた。 続いて、長期記憶を人為的に減衰させることを考えた。長期記憶を消去させた後、再学習させ、長期記憶がよみがえるならば、非想起型の記憶の存在が示唆できる。これはトラウマ治療に有用な知見となると考えられる。トラウマ記憶に誘起される不安や恐怖は、トラウマとなった事象を繰り返し想起することにより緩和される。しかしながら、時間が経つにつれて再び不安や恐怖が蘇ることがわかっている。私は、記憶を消去させると神経伝達効率は一過的に低くなり、長期記憶の減衰が見られるが、エピジェネティックな制御は変化しないために長期記憶誘導能は維持され、似たような経験をすると長期記憶が蘇るのではないかと考えた。私は現在、この仮説をショウジョウバエで検証できるのではないかと考え、実験を遂行中である。
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