2011 Fiscal Year Annual Research Report
言語哲学における「導入」概念の分析とその意義の探求
Project/Area Number |
09J06891
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
荒磯 敏文 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 自然言語 / 意味論 / 出来事意味論 / 語用論 / 談話照応 / 指示 / 導入 |
Research Abstract |
平成23年度は、本研究計画の第三年目にあたる。科学研究費補助金交付申請書に記載した「研究実施計画」に照らすと、本年度の中心的な課題は、"The Logical Form of Actions Sentences"(Davidson,1967)を嚆矢とし、その流れをくむテレンス・パーソンズらの新デイヴィドソン主義者が支持する種類の出来事意味論(event semantics)と「導入」現象の関係性を明確にすることにあると言える。とりわけ、「導入」と談話照応(discourse anaphora)、あるいはより一般的に非束縛的代名詞(unbound pronouns)との関係一般について、出来事意味論に訴えることでより自然な説明を与えることが目的である。これらは形式意味論と語用論のインターフェイスに属する重要な研究主題であるが、目下のところ目立った先行研究は存在していない。 こうした課題は、応用哲学会第3回年次研究大会での研究発表「固有名の『指示的用法』」および、日本科学哲学会第44回研究大会での研究発表「指示と出来事」において、ある程度の達成を見ることができた。前者の発表では、固有名が意味論的な観点と語用論的な観点とで二重に指示をもち、さらに談話照応とも複雑な関係をもつような、クリプキが"Speaker's Reference and Semantic Reference"(1979)において指摘した種類の言語現象について、出来事意味論および出来事への指示/導入という概念に訴えることで整合的に説明する理論的な枠組みを与えるととができた。 後者の発表では、従来の出来事意味論の主張と異なり、出来事への指示という概念それ自体が、自然言語の意味論を与える上で要請されるものとして動機づけられること、そして、それに基づいて、いくつかの言語現象に新しい種類の整合的な説明が可能であることを示した。出来事の指示という概念を動機づけることは、その次に、出来事の導入を動機づけるための重要な前提としても機能することが見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目標は、新デイヴィドソン主義的な出来事意味論において、出来事への指示ないしは導入という概念を動機づけることで、自然言語の形式意味論および語用論に重要な寄与をなすことであった。それは、応用哲学会第3回年次研究大会での研究発表「固有名の『指示的用法』」および、日本科学哲学会第44回研究大会での研究発表「指示と出来事」において、ある程度の達成を見ることができた。関連研究者の理解も得られたと考えられるので、論文とし、それぞれの学会誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画は、研究の進捗とともに、当初見込んでいたよりも多くの論点を提起することが判明した。ひとつには、本年度に取り組んだ出来事意味論との関連であり、あるいは、フォコニエの「メンタルスペース理論」や田窪・金水の「複数の心的領域による談話管理」(1996)で提示された談話管理理論との関連である。このように、本研究計画の中心的な主題である「導入」の射程が広がったため、その一般的な考察を与えることまではできなかった。これは予想外の遅延であるが、一方で、当初の見込みよりも豊かな理論的収穫を期待できるという点で、望外の成果であったとも言える。今後は、こうした理論との関係を明確にしつつ、「導入」概念が、自然言語の形式意味論および語用論にどのような寄与を果たすのかを研究の軸として展開を続けることを予定している。
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Research Products
(2 results)