Research Abstract |
小笠原弧大町海山西縁の断層崖において採取されたアンチゴライト蛇紋岩の構造解析と結晶方位の測定を行った.その結果,蛇紋岩には塊状~片状の産状をもつことがわかり,塊状の試料にはアンチゴライトが不規則に発達し,剪断方向とは無関係な比較的強い異方性をもつことがわかった.片状の試料にはアンチゴライトの形態定向配列が発達し,剪断面に沿ったアンチゴライトの(001)面の配列が認められた.片状試料の異方性は塊状試料の3倍大きく,かんらん岩と比較して約1桁ほど大きい.この結果は,Katayama et al.(2009)と調和的であることから,沈み込み帯で認められる海溝に平行な強い地震波異方性は,沈み込むスラブに平行で,マントルウェッジ最下部に存在すると予想されるアンチゴライト粒子の配列によって説明できることを示唆する. 次に,かんらん石と低温型・高温型蛇紋石の3種類の岩石を用いて,沈み込み帯のマントルウェッジに対応する温度圧力条件下で2相系の単純剪断変形実験を行った.実験は,広島大学所有の固体圧式変形試験機を用いて行い,温度300,500℃,封圧1GPa,定歪速度下で行った.その結果,低温型蛇紋石とかんらん石には約1桁の粘性率比があるが,高温型蛇紋石とかんらん石にはわずかに1~3倍の粘性率比しか存在しないことがわかった.このことは,沈み込み帯におけるプレート間カップリングの程度は,マントルウェッジ基底部に存在する蛇紋石種によって大きく変化することを意味する.つまり,冷たいスラブが沈み込む東北日本では,マントルウェッジ基底部に存在する低温型蛇紋石が両プレート内での強いデカップリングを引き起こすと考えられるが,暖かいスラブが沈み込む西南日本では,高温型蛇紋石とかんらん石の間に粘性率比がほとんどないため,弱いデカップリングしか引き起こさないと考えられる.
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