Research Abstract |
中生代三畳-ジュラ系遠洋性層状チャートの層厚変動がミランコビッチサイクルと呼ばれる地球軌道要素変動に伴う日射量分布変動を反映した事を明らかにした(Ikeda et al., 2010a EPSL : 2010b ESF).今年度は,ミランコビッチサイクルが層状チャートの堆積リズムに反映されたメカニズムを解明するため,チャート・頁岩単層単位で連続的に元素分析を行い,層厚変動の要因を検討した.その結果,チャート層厚は生物源シリカの埋没速度を反映したことを明らかにした.さらに,層状チャート中の生物源シリカの全球的な堆積速度を推定した.その結果,現在の全海洋に堆積する生物源シリカの堆積速度と同程度から倍以上にも相当した.海洋に堆積する生物源シリカは溶存シリカの主要シンクであるため,この結果から,中生代以前においては層状チャートが海洋の溶存シリカの主要シンクであることを示した.一方,海洋の溶存シリカの主要ソースは陸域のケイ酸塩風化速度変動であるため,これが層状チャート中の生物源シリカの埋没速度の変動要因であった可能性を示唆した.天文学的周期におけるケイ酸塩風化速度変動は夏モンスーンに駆動されることが気候モデル(Kutzbuch,1994,2008)により示されている.これらのことから,天文学的周期における夏モンスーン強度変動でケイ酸塩風化速度が変動し,海洋への溶存シリカの供給量が変動した結果,層状チャートとして堆積する生物源シリカの埋没速度が変動し,層状チャートの堆積リズムが形成されたというモデルを提唱した. このモデルをペルム紀末大量絶滅からの回復過程にあたる下部-中部三畳系に適用した。その結果,前期三畳紀の生物源シリカの埋没速度は異常に高く,その後,中期三畳紀にかけて減少したことから,回復過程において陸域ケイ酸塩風化速度が徐々に弱まった可能性を示した.さらに,地層の周期を年代目盛としてサイクル層序を構築すると共に,長周期日射量変動と古環境変動,生物多様性変動との関連性の検討,およびその日射量変動の周期変調から太陽系惑星運動のカオス的挙動の意義について研究している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時には,ペルム紀末からの大量絶滅のみを研究対象としていた.一方,その研究成果を基礎として,古環境変動解読における重要要素である,天文学的周期による高解像度年代軸の確立法と物質循環収支の定量的解析法を確立しつつある.現在,ペルム紀末からジュラ紀前期までの6500万年以上の古環境変動の解析を行い,様々な成果を挙げている.そのため,当初の計画以上に進展している,と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでに確立した上述の研究手法に加え,地球化学的な手法を取り入れる予定である.特にこれまで,物質収支の主要シンクである遠洋堆積層の研究が主体であったため,今後は主要ソースである陸成層のケイ酸塩風化速度の定量推定を試みる.これにより,地球史を通して様々な物質の収支の変動を解析し,表層環境変動のダイナミクスを解読する.一方,地域差を考慮するには,1地点の地質記録のみでなく,世界各地の地質調査に基づく,グローバルな物質収支を解明する必要がある.そこで,これまでの研究で交流してきた各国の研究者と協力して,地質調査を行い,各地の地質記録を分析・解析して物質循環の視点から読み解く予定である.
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