2010 Fiscal Year Annual Research Report
自己形成量子ドットのスピン軌道相互作用によるスピンコヒーレンスとスピン操作の研究
Project/Area Number |
09J08921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 駿 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 自己形成量子ドット / スピン軌道相互作用 / スピンコヒーレンス / 近藤効果 / スピン操作 / 電子スピン共鳴 / 電子輸送現象 |
Research Abstract |
当該年度では、自己形成InAs量子ドットにおいて、スピン軌道相互作用(SOI)によるスピン回転操作を実現するために、その試料作製法を確立することを中心とした研究の遂行を計画した。 当初考案した試料構造は複雑であるため、まずは、ドット近傍にサイドゲートとして新たにゲート電極を設け、ここに高周波電圧を印可できるように、高周波信号の導波路をもつチップキャリアに試料をマウントした。また、所属研究室が所有する高周波電圧発生装置と高周波ラインを備えた希釈冷凍機とを接続できるように、高周波部品を揃え、実験環境を整えた。 希釈冷凍機温度に冷却したInAsドット試料に、サイドゲートから高周波電場を印可して、ドットを流れる電流を測定した結果、InAsドットを介した光介在トンネル(photon-assisted tunneling)を観測した。具体的には、ドット内の離散順位を通って流れる電流のクーロンピークが、高周波電場の印可により、ゲート電圧の掃引に対して正電流から負電流へと変わるポンプ電流(pumped current)に変化した。これは、ドットと左右の電極との接続が非対称なときに起こる光介在トンネルの典型例であり、これまでにゲート定義型量子ドットで研究されてきた結果と定性的に一致した。この結果から、ドットに実際にはたらいている高周波電場の振幅を見積ったところ、ドットにおいてスピン回転操作をするのに十分な振幅であると見積もられた。この結果は、現在論文準備中である。 次に、奇数番目の電子の準位に対して連続的に高周波電場を与えながら、クーロンピークの変化を調べ、SOIによるスピン回転操作の実験を行った。静磁場によるゼーマンエネルギーと高周波電場のエネルギーが一致すると、SOIによる電子スピン共鳴が起こり、クーロンピークが分裂することが予測される。しかし、ドットの電極との結合が大きいために、期待した結果は得られなかった。そこで、ポンプ-アンド-プローブ法でスピン回転操作を調べることを、次年度の目標とする。これは、高周波電場とともにパルス電圧をサイドゲート電極に印可することで、スピン回転操作を電極のフェルミエネルギーよりも低いところで行い、検出をフェルミエネルギー付近で行う手法で、これによってドットと電極との結合に依らない測定が可能になる。 また、昨年度に投稿した論文が受理され、Physical Review Lettersに出版された。これは、自己形成InAs量子ドットにおいて、量子ドット固有の選択則に基づき、ラシュバ項のSOIだけに注目し、その面内磁場角度ψに対する依存性を調べたところ、SOIエネルギーが|cosψ|の依存性を示したという結果である。
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