Research Abstract |
本研究の目的は,液体への直接パリレン蒸着中に生じるパリレン膜の応力を計測し,それによって,液体表面上で成膜したパリレンの膜応力発生メカニズムを解明することである.この目的に対し,本年度では,液体カプセル化プロセス中に生じるパリレン膜の応力を計測した.そして,膜応力発生メカニズムを解明するためにパリレン表面のポリマー構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した. 蒸着中に撮影した液滴の写真から液体表面で働くパリレン膜の応力を計測した.液滴表面プロファイルを画像処理で抽出し,曲率を求め,液滴表面で働く力を計算した.蒸着中,パリレン膜の応力が連続的に増加することが分かった.厚さ1μmの膜の場合,膜応力が最終的に700μN/mmに達し,カプセル化される液体の表面張力と比べ20倍も大きい.主に行った観測・計測方法は,計画で提案したマイクロカセンサを用いる方法と異なり,センサ周辺の局所的な振る舞いだけでなく,全体の現象と応力分布なども観測・計測できるのでより有利だと考えられる. パリレン膜の厚さを計測した.固体表面に蒸着した場合,パリレンの膜厚が均一であることがよく知られている.計測結果では,液体表面に蒸着したパリレン膜の厚さも広い領域を渡って均一だったと言える.ただし,同じサンプルでも,液体表面に成膜したパリレン膜が固体表面に成膜したパリレン膜より2倍も厚いことが分かった. パリレン膜の蒸着中液体に接触する面を走査型電子顕微鏡で観察した.パリレン表面は,予測したよりも複雑だったので,観察するために計画で提案した原子間力顕微鏡(AFM)ではなく,走査型電子顕微鏡を用いなければならなかった.固体表面に蒸着したパリレンの表面と大きく違い,全面が複雑な三次元ポリマー構造で覆われた.しかも,膜の断面を観察した結果,膜厚さ方向には,2つの領域に分けることができ,多孔性領域と非多孔性領域があり,多孔性領域ではポリマーが複雑な三次元構造になっている.このようなポリマー構造を持ったパリレンは従来文献では報告されていない.この複雑な三次元ポリマー構造層の形成が大きい膜応力の原因であると考えられる.
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