Research Abstract |
新規勃興産業の歴史的経緯を分析するうえで,産業革命を契機とする技術進化および経済発展の過程を理解することは必要不可欠である.平成22年度は,こうした問題意識に対して定量的手法を用いて技術の開発過程を分析することに主眼を置いた. 第二次大戦後の新規産業のひとつであり,またインターネット産業とも密接に関連を持つ発光ダイオードの技術開発過程について,研究を実施した.本成果は,雑誌Prometheusに査読付き論文として採録される予定である.本論文では,技術開発過程での研究者の役割,特に,日本の学位制度の特色である論文博士と課程博士の差異が研究開発のパフォーマンスにどのように作用したのか明らかにすることができた.また,ヨーロッパにおける同種研究の状況について調査・成果発表を行うことを目的として,PhD in Management Sciences Seminar Open Innovation and Open Business Models(スペイン・バルセロナ)およびSecond Asia-Pacific Innovation Conference(シンガポール・シンガポール大学;東日本大震災の影響により開催を2011年3月末東京より変更)にて研究発表を実施した,本研究では,日亜化学工業の中村修二(当時)が開発した青色発光ダイオード(青色LED)の技術開発過程について,特許および学術論文の後方引用情報を世代別に精査することで,(1)青色LEDの発明は1930年代から続く逐次的,累積的技術開発の賜物であったこと,(2)1960年代から1980年代はアメリカの大企業,それ以前はドイツの公的研究機関が青色LEDに至るまでの技術開発のイニチアシブを担っていたこと,これらのことから(3)破壊的イノベーションに至るまでの技術開発は逐次的技術開発の積み重ねによるものであり,またその過程は国家横断的であることを示すことができた. これらの研究調査は,産業分析および技術革新に関する既存研究に対する貢献であり,また,同世代史を詳らかにする経営史学として,実証研究的役割を果したといえる.
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