2009 Fiscal Year Annual Research Report
クメール建築装飾にみる人物彫刻の史的展開―自律的東南アジア美術史観形成の試み―
Project/Area Number |
09J40096
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
辻本 実央 Sophia University, アジア人材養成研究センター, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 東南アジア美術史 / 人物彫刻 / クメール建築装飾 / 自律的東南アジア美術史観 |
Research Abstract |
本研究の目的は、9世紀後半から13世紀のクメール遺跡を飾る浮彫に描かれた人物彫刻の様式と遺跡等との関連性の変遷について明らかにし、クメール美術史全体をつらぬく大きなフレームワークとして人物彫刻を題材とした自律的な東南アジア美術史観を提示することである。本研究で具体的に明らかにしようとすることは次の2点である。各点について平成21年度の研究成果をまとめる。 第一に、アンコール王朝が興隆したおよそ9世紀から13世紀までを網羅するクメール遺跡(計35)の建築装飾に用いられた人物彫刻の特徴的な様式、所属する建築物とそこにおける配置関係の歴史的展開を明らかにする。平成21年度は、データ未入手であったBaphuon、KoKhe、およびデータが不完全であったBanteay Sreiの3遺跡のデータをフィールド調査によって得たうえで、9~13世紀の全クメール史を網羅する人物像彫刻の分析と考察を行った。その結果、次の2つの新たな知見が得られた。第一に、state-temple(国家鎮護寺院)においては女性立像が中央祠堂を守護している可能性が高いということである。第二に、少なくともKo kheの時代からは伝統的なドヴァーラパーラ像が丸彫の彫像として分離され、従来の平面的な結界が三次元・立体的なものに進した可能性があるということである。これらは先行研究で明示的には指摘されておらず、新たな視点を提示する重要な知見である。この成果について会での発表を申し込み、査読の結果、発表が決定している(The 13th International Conference of the European Association of Southeast Asian Archaeologists(EurASEAA)、2010年9月)。 第二に、上記で明らかになった特徴的な様式とその展開が、クメール文明内で独自に起きた表現様式の模倣・拡大・変容といえるのか、域外文明からの影響によるものなのかを明らかにする。そのため、ミャンマーのパガン(パガン朝11世紀~)のストゥーパと、タイ、ラオス国内の遺跡群も考慮に入れた分析を行った。現段階では明示的な結果は得られていないが継続的に分析を行う。
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