2011 Fiscal Year Annual Research Report
古代国家の銭貨政策と中央官司財政の実態―正倉院文書の分析を中心に―
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09J40143
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 理恵 (市川 理恵) 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 日本古代史 / 正倉院文書 / 二部大般若経写経事業 / 布施申請解案 / 藤原仲麻呂 / 写経所 / 月借銭 |
Research Abstract |
平成二十三年度は、正倉院文書に現存する二十数点の宝亀年間の布施申請解案(写経生への給料支払の申請書)を分析した論文「宝亀年間の布施申請解案の考察」を『正倉院文書研究』12に公表した。ここでそれぞれの文書の年代や接続関係を解明し、宝亀年間における布施(給料)の支給基準の変遷をあきらかにした。 また藤原仲麻呂政権下に行われた二部大般若経写経事業の財政とその運用の実態を、正倉院文書に残された帳簿から追究した論文「二部大般若経写経事業の財政とその運用」を『ヒストリア』226号に公表した。この写経事業においては、栄原永遠男氏によってその物資調達が、写経事業の進展過程に対応して、かなり計画的に行われており、物価騰貴や物資不足を想定せず、あたかも必要な時に必要な量の諸物資を購入できるという前提に立っていたとし、当時の流通経済における写経所の強さが指摘されていた(「奉写大般若経所の写経事業と財政」『奈良時代写経史研究』塙書房、二〇〇三年、初出、一九八○年)。しかし本研究によって財源用の調綿の高値での売却に失敗し、また未曾有の米価高騰により、その財政が圧迫されていたことを論証し、このことが仲麻呂政権にとって大きな打撃となったことを主張した。 また宝亀年間の一切経写経事業においては、写経事業の性格と財政の検討、月借銭解の分析を行った。 以上、石山寺造営事業、二部大般若経写経事業、宝亀年間の一切経写経事業の三つの事業の財政構造の解明を目標としていたが、このうち二つ(二部大般若経写経事業と宝亀年間の一切経写経事業)については達成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
石山寺造営事業、二部大般若経写経事業、宝亀年間の一切経写経事業の三つの事業の財政構造の解明を目標としていたが、このうち二つ(二部大般若経写経事業と宝亀年間の一切経写経事業)については達成できたので。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、宝亀年間の一切経写経事業の財政を論文としてまとめ、さらに石山寺造営事業の財政構造の解明を急ぎたい。そして石山寺造営事業、二部大般若経写経事業、宝亀年間の一切経写経事業の三つの事業の財政構造の解明をしたうえで、古代国家の銭貨政策を検討する。すなわち新銭発行や、銭貨の法定価値の付与やその変更、また流通銭貨の規制や緩和など、古代国家が採った銭貨政策の影響を調べ、古代国家の銭貨政策と中央官司財政の関連について追究する。
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Research Products
(2 results)