1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10041106
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
内田 亮子 千葉大学, 文学部, 助教授 (50283685)
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Keywords | オランウータン / 形態 / 成長 / 二次性徴 |
Research Abstract |
野生オランウータン(Pongo pygmaeus)の頭蓋・歯・骨格の各部位における成長・加齢進行の相互関係を分析する目的で骨格標本を調査した。成長・加齢の指標として注目した部位は、乳歯・永久歯の萌出、咬耗、長骨、骨盤、肩胛骨などである。類人猿形態の研究において、成長・加齢段階の評価については、頭蓋、歯、骨格など独立に行われることが主で、各部について、成長・加齢の標準的な基準が使われている。しかし、それらの基準の相互関係(例:歯の萌出・咬耗進行と上腕骨の成長がどのように対応しているのか)についての研究は未開拓である。本研究の結果から、1)オランウータンの成長・加齢は、頭蓋・歯・骨格の各部位で、ある程度、独立におこるものであり、通常使われている「成体」の基準を使った場合、個体内で推定加齢段階は異なる、また、そのパターンも個体間で変異が大きい、2)オランウータンでは、特に雄で、頭蓋底の蝶後頭軟骨結合の癒合は、永久歯完全萌出よりも遅れること、また、長骨の中で最も遅くまで成長が続くのは、前腕骨遠心端だが、この成長停止までに、咬耗・即ち加齢はかなり進行していることが明らかになった。成長・加齢進行の部位間変異が大きいのは、各部位の発達速度と二次性徴発現時の内分泌による調整の違いを反映している可能性が高く、更なる研究が必要である。オランウータンは性的二型が顕著だが、頭蓋・歯・骨格の加齢がかなり進行しているにも関わらず、雌のサイズに止まっている雄も認められた。野外調査によって、雄の成長・二次性徴発現・加齢進行の変異、更に、形態が異なる雄の生殖活動・社会行動など詳細に記録・分析する必要がある。これらが解明されることで、成長・加齢プロセスの大きな変異が適応的なものであるかどうか、検討が可能となる。本研究結果は断片的な化石ヒト上科種の資料から年齢を推定する際、十分注意する必要があることを示唆する。
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