1998 Fiscal Year Annual Research Report
ヒヒ類の社会構造の変異に関する生態学的・遺伝学的研究
Project/Area Number |
10041174
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Research Category |
Grant-in-Aid for international Scientific Research
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Section | Field Research |
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
岩本 俊孝 宮崎大学, 教育学部, 教授 (40094073)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
アーマド アル・ブーク サウジアラビア国立野生生物研究センター, 研究所員
アフォーク ベケレ アジスアベバ大学, 理学部, 教授
森 明雄 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (50027504)
庄武 孝義 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (00003103)
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Keywords | マントヒヒ / ゲラダヒヒ / 適応放散 / 系統進化 / 社会構造 / 集団遺伝 / 採食生態 / 子殺し行動 |
Research Abstract |
今年度は、主としてサウジアラビアのマントヒヒを対象にして、3回の海外調査を行った。森明雄は6月〜8月にかけて社会学的調査を行い、タイーフ市のゴミ捨て場群、640 頭の群れの社会構造及びオスによるメスの統率行動を観察した。この群れでは、これまでエチオピアやサウジアラビアの他の群れで知られているより、オスのメスを集めようとする傾向が弱いこと、メスはユニットから独立に動き回る傾向が強いこと、幼児の拐かしによるユニット生成が希なこと等、特徴的な社会構造をもつことが明らかになった。これは、複雑な岩場に棲むという生息環境の特殊性によるものと思われるが、社会構造の環境可変性という観点から重要な観察結果である。 庄武孝義と山根明弘が9月〜11月にかけて行った遺伝学的調査では、サウジアラビア北部の個体群15頭の血液と、タイーフ市のダムサイト群23頭の血液サンプルを得た。また、昨年度採取していた血液サンプルの、血液タンパク、マイクロサテライト DNA、ミトコンドリア DNA を使った遺伝学的分析を行い、アフリカの個体群との比較を行った。アフリカ、アラビア半島の個体群の間には明確な遺伝的差異が見られず、またアラビア半島個体群の方が遺伝的多様性が大きかった。これは、マントヒヒの種の起源についての貴重な情報を与える。岩本俊孝・山根明弘は10月〜12月にかけて生態学的調査を行い、タイーフ市ダムサイト群(360 頭)における人間の餌への依存状態、自然餌の組成、活動リズム、社会構造などについて観察を行った。その結果、およそ2/3の栄養を人工餌に頼っている状態であること、かなり多くの毒素を含む植物が採食されていること、乾燥地帯を生き抜く活動パターンが明確に出ていること、ユニット間のメスの移動がかなり頻繁である可能性が高いこと等の結果を得た。今後、生態的な特徴について、アフリカの個体群との比較分析を行う。 岩本はエチオピアを短期間訪れ、共同研究者と来年度以降の調査についての研究連絡及び調整を行った。また、1999 年1月に犬山開催されたオナガザル科の国際シンホジウムにおいて、上記結果をそれぞれ発表した。
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[Publications] Belay,G.& Shotake,T.: "Blood protein variation of a new population of gelada baboons(Theropitecus gelada)in the southerm Rift Valley,Arsi Region.Ethiopia." Primates. 39(2). 183-198 (1998)
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[Publications] 松本 清明・庄武孝義 & Belay,G.: "野生ゲラダヒヒの血液学的特性とエリスロポエチン濃度" 霊長類研究. 14(3). 273 (1998)
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[Publications] Mori,A.,Iwamoto,T.Mori,U.& Bekele.A.: "Sociological and demographic characteristics of a recently found Arsi gelada population in Ethiopia." Primates. 40(2). 365-381 (1999(印刷中))