2000 Fiscal Year Annual Research Report
ヒヒ類の社会構造の変化に関する生態学的・遺伝学的研究
Project/Area Number |
10041174
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Research Institution | MIYAZAKI UNIVERSITY |
Principal Investigator |
岩本 俊孝 宮崎大学, 教育文化学部, 教授 (40094073)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 明雄 京都大学, 靈長類研究所, 助教授 (50027504)
庄武 孝義 京都大学, 靈長類研究所, 教授 (00003103)
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Keywords | マントヒヒ / ゲラダヒヒ / 適応放散 / 系統進化 / 社会構造 / 集団遺伝 / 採食生態 / 子殺し行動 |
Research Abstract |
本年度もサウジアラビアのマントヒヒを対象として社会学、生態学及び集団遺伝学的調査・研究を行った。森明雄は7月から9月にかけてタイフ市のゴミ場群とダムサイト群の社会学的観察を行い、両個体群の単オス群の構成及び性・年齢構成をつぶさに調べた。その結果、ダムサイト群のユニット当たりのメス数が、日常化しているオスの射殺のため、ゴミ場群の2倍もあることが判明した。また、実際に1例のオスの射殺に遭遇し、その後のメスの分割・離散過程を観察できた。そのメスの移動は基本的にエチオピアのマントヒヒで知られている型と同じであった。また、オスの囲い込み行動を観察することによって、オスによるアカンボウ殺しは子殺し遺伝子の存在によって起こるものではないと推論した。岩本は、ダムサイト群の夏季における採食・遊動行動を調べるため、8月に短期間渡航した。過去3年間の資料の分析により、この群は都市近郊の群としては比較的厳しい環境下で生活している群であると判定できた。それは、今後、群の個体群パラメーター決定要因を知るための基礎的資料となる。また、岩本はヒヒ類各種の既存資料及び自分の観察資料を用い、群が費やす移動時間と群サイズの関係について分析・考察を加えた。その結果、ヒヒ類が厳しい環境に適応していくとき、単に移動時間を増やすというだけでなく、群サイズを小さくするというオプションもあることを指摘した。山根・庄武は11月ダムサイト群で46頭のヒヒを捕獲し、血縁関係の分析のため血液を採取した。山根はまたこれまで捕獲した60頭のマントヒヒのマイクロサテライト分析を終え、マントヒヒの単オス群を支えている血縁性についての興味ある結論を得た。すなわち、ダムサイト群内の単オスユニットに属する1〜4才のコドモ14頭のうち実に13頭が、そのユニットのオスのコドモではないことを突き止めた。これは、マントヒヒ社会のユニット生成過程についてこれまで語られてきたシナリオからかなりかけ離れた、かつ大変新しい知見となる。これが実際どのような社会的しくみで起こりうるのかという点の研究が、上記森明雄の社会学的研究成果と合わせて、必要であると理解されることとなった。庄武は、マントヒヒのサウジアラビア起源説をさらに補完するため、研究室での分析を続けた。以上、本年の研究により、サウジアラビアのマントヒヒの生態、社会についての全体像を掴み得るようになった。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 岩本俊孝: "アクティビティでどうヒヒの社会が読めるか"靈長類生態学-環境と行動のダイナミズム(杉山幸丸偏)京都大学出版会. 201-224 (2000)
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[Publications] 森明雄: "子殺し行動における自他の赤ん坊の識別"靈長類生態学-環境と行動のダイナミズム(杉山幸丸偏)京都大学出版会. 361-384 (2000)
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[Publications] 森明雄: "サウジアラビアの崖に住むマントヒヒ"モンキー. 43(5,6). 3-7 (2000)
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[Publications] Shotake,A.& Boug,A.: "Genetic differentiation between Ethiopian and Arabian hamadryas baboons."Annual Report from National Wildlife Research Center, Saudi Arabia,1999. 1999. 1-14 (2000)