1998 Fiscal Year Annual Research Report
Na,K-ATPase阻害と癌細胞分化やアポトーシス誘導への情報伝達機構解明
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10153263
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
吉田 武美 昭和大学, 薬学部, 教授 (20138415)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒沢 雅広 昭和大学, 薬学部, 助手 (10297020)
沼澤 聡 昭和大学, 薬学部, 助教授 (80180686)
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Keywords | ブファリン / Na^+,K^+-ATPase / 分化誘導 / ERK / P38 / PKC / カルシウムイオン |
Research Abstract |
本研究では、生薬センソ成分ブファリンのNa^+,K^+-ATPase阻害に基づくヒト白血病細胞分化誘導機構のメカニズムを明らかにし、Na^+,K^+-ATPaseを標的とする新規作用機序をもつ制ガン剤開発を最終目的とする。 ブファリンのNa^+,K^+-ATPase阻害作用により起こる二次的なカルシウムイオン流入と分化誘導作用との関連性を検討するために、ナトリウム/カルシウム交換体の選択的阻害剤KB-R7943を用いた。KB-R7943の前処置によりブファリンによる分化マーカー(IL-1β)の発現誘導が約60%抑制された。カルシウムイオノフォアA23187を用い強制的に細胞内にカルシウムを導入したところ、濃度依存的に分化マーカー発現を誘導した。細胞内へのカルシウム流入が、分化マーカーの発現に関与するという結果が得られたことから、カルシウムシグナルにより活性化を受ける分子のうちPKCに着目した。PKCの選択的阻害剤Ro-31-8220を前処置したところ、分化マーカー発現が顕著に抑制された。また、ブファリンはERKを活性化したが、これはRo-31-8220の前処置により強く抑制された。 ERKの上流分子であるMEKの選択的阻害PD98059の前処置は、ブファリンによるERK活性化を阻害するとともに分化マーカーの発現を顕著に抑制した。一方、P38MAPKの選択的阻害剤SB203580の前処置では、ブファリンのERK活性化や分化マーカー誘導が著しく増強され、さらに細胞付着性や形態変化も著明に出現した。 ブファリンの分化やアポトーシス誘導作用が、その強心作用と同様にNa^+,K^+-ATPase阻害と関連することは既に明らかにしている。本研究ではイオン交換体阻害剤やイオノフォアを用いた検討により、心筋に対する作用と同様、カルシウムシグナルが白血病細胞の分化誘導作用発現の初期段階にも重要であることを明らかとした。さらに、PKC阻害剤はブファリンの効果を抑制することから、ブファリンの分化刺激伝達に本酵素を介するシグナルカスケードが少なくとも一部関与することが考えられた。さらに、ブファリンのアポトーシス誘導と同様に、分化誘導作用においてもERKキナーゼカスケードの活性亢進が重要であることが本研究から明らかとなった。さらに、P38MAPKによるERKの負の調節機構により、分化とアポトーシスの方向性が決められる可能性が示唆された。
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